検証東大病院 封印した死

【速報】(東大病院カテーテル死「隠蔽」事件) 東大病院が一転、「病死」から「医療事故」と認定 / 医療事故調査制度の手続きを開始 / 「情報漏らした」と「犯人捜し」を宣言

2018年12月13日11時31分 渡辺周

東京大学病院で41歳の男性患者が心臓治療の16日後に死亡した東大病院カテーテル死「隠蔽」事件で、東大病院は医療事故調査制度(*1)に則った手続きに入った。当初は男性の死を「病死」として処理していたが、ワセダクロニクルの報道などを受けて対応を変えた。同時に、病院の内部情報を外部に提供した職員の「犯人捜し」を始め、「厳正な対応」を明言。組織内で不正があった場合の告発者を守る公益通報者保護法に違反する可能性が出てきた。

東大病院のウェブページ。「一部の報道機関における報道事案について」という記事が2018年12月7日にアップされた

東大病院は2018年12月7日、ホームページ上に「一部の報道機関における報道事案について」というタイトルの記事をアップ(*2)。ワセダクロニクルなどの報道を念頭に「一部の報道機関において報道されております当院での治療経過における死亡事例につきましては、現在、医療事故調査制度に則り適正に手続きを進めております」としている。この日は、ワセダクロニクルが朝に「新治療の実績づくりに躍起 ーー検証 東大病院 封印した死(2)」をリリースした日だ。

医療事故調査制度とは医療法に基づく制度。この制度では、医療事故を「医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」と定義している。具体的には、医療事故だと病院長が判断した場合は、制度に基づいて遺族へ説明し、医療事故調査・支援センター(通称・医療事故調)(*3)に報告。当該の医療事故調査が始まる。

東大病院がこの制度に基づく手続きに入ったということは、男性の死を「医療事故」と判断したことを意味する。「病死」という判断を覆したことになる。

さらにホームページでは「一部情報の管理と取扱いに適切ではないと思われる点があったことは誠に遺憾であり、速やかに当院にて厳正な対応を行ってまいります」とあり、東大病院内の情報を外部に提供した職員を処分する方針を公にした。

しかし、2006年4月に施行された公益通報者保護法では、組織内の不正を行政機関や報道機関などに内部告発したことを理由に不利益な扱いをすることを禁じている(*4)。

東大病院の関係者は「男性患者が治療で死亡した病院の責任を、外部への情報提供者の『犯人捜し』でごまかそうとしている。そもそも男性の死を隠蔽し、組織内での自浄作用がないことが、外部への情報提供につながったのでないか」と話している。

当初は「病死」として男性の死亡を処理しておきながら、なぜ医療事故として判断して調査を始めたのか。

東大病院パブリック・リレーションセンター(部長=秋下雅弘東大医学部教授)の総務課総務企画チームの本田美紀子広報・企画担当は2018年12月13日、ワセダクロニクルの取材に対して「組織としての判断です。それ以上のことは申し上げられません」と話している。 また本田担当は、公益通報者保護法に反する可能性があるにもかかわらず、外部への情報提供者が誰かを捜し出し、東大病院が「厳正な対応を行う」ことについても「組織としての判断だ」と答えた。

 

関係者へのインタビューは以下の動画からご覧いただけます。

【動画】担当医師へのインタビュー

【動画】東大病院の循環器内科のトップ、小室一成教授へのインタビュー


*1 厚生労働省「医療事故調査制度について」、厚労省ウェブページ(2018年12月13日取得、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061201.html)。

*2 東大病院「病院からのお知らせ:一部の報道機関における報道事案について」、東大病院ウェブページ(2018年12月13日取得、http://www.h.u-tokyo.ac.jp/oshirase/archives/20181207.html)。

*3 医療事故調査・支援センターとは、医療法第6条の15第1項に基づき厚生労働大臣が定める団体。出典:医療事故調査・支援センターウェブページ(2018年12月13日取得、https://www.medsafe.or.jp/modules/about/index.php?content_id=14)。

*4 消費者庁によると、公益通報者保護法では、通報先として(1)事業者内部(2)権限を有する行政機関(3)その他の事業者外部ーーの3つを定めており、「その他の事業者外部」には報道機関も含まれている。東大病院の「犯人捜し」の方針は同法に違反する可能性がある。出典:消費者庁「公益通報となるために必要な事項について」、消費者庁ウェブページ(2018年12月13日取得、http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/report/necessary/#q3)。東京弁護士会公益通報者保護特別委員会「公益通報制度の目的ってなんですか?(2016年9月号)」、東京弁護士会ウェブページ(2018年12月13日取得、https://www.toben.or.jp/know/iinkai/koueki/column/20169.html)。

男性が死亡した東京大学病院=2018年11月26日午後12時42分、東京都文京区本郷7丁目

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