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乳がん患者の再発リスクが劇的に減るという結果を示した抗がん剤「ゼローダ」の臨床試験に、製造・販売会社の中外製薬のカネが紐付いていた。そのカネの流れを隠す「隠れみの」にするために、先端医療研究支援機構(ACRO=アクロ)というNPO法人は作られたのではないか、という疑いを私たちは持った。
ACRO発足当初からの事情を知る関係者Yと会うことができた。
Yとは2019年12月、東京・渋谷のカフェで会った。
そして、Yは認めた
Yにはまず、中外製薬のACROへの寄付金が臨床試験に紐付いていたことを示すACROの経理資料を見せた。その後、それに基づいてこう質問した。
「中外はACROの活動全体に賛同して寄付したと主張しているが、実際は臨床試験に紐づいていたのではないか」
中外製薬は、横領事件が発覚した後もACROへの寄付を継続している。5億円超の横領事件を起こされながら寄付を続けるというのは、「隠れみの法人」の役割がなければ考えにくいからだ。
Yは認めた。
「ACROに入る製薬会社からの寄付金は、みんな紐が付いてるんだよ。紐が付かないなんて、ないよ」
製薬会社と医師は「なーなー、つーつー」
Yは、ACROができる2000年代初頭まで、製薬会社と医師は「なーなー、つーつー」の関係だったといった。ときには医師に直接400万円を渡す製薬会社の営業担当者もいたという。
それに対し、それでは医師主導の臨床試験が信頼されなくなるという批判が起きる。「医師主導」ではなく、製薬会社からのカネで「お抱え」の臨床試験になってしまうからだ。その批判をかわすため、中間に「隠れみの」の法人をつくるという仕組みが出来上がった。
その後、隠れみのNPOや財団が次々にできた。
「先生たちは製薬会社からのお金の受け皿がほしいんですよ。政治家と同じで、資金がないと何もできないから」
「しかし政府は臨床試験には十分な資金を出さない。こんなことでは、日本の臨床試験は欧米に差をつけられるばかりだ。製薬会社はACROのような団体にお金を入れざるを得ない。糖尿病関連の財団とか、もっと大きな額が入ってるところがいろいろありますよ」
医師は知らなかったのか?「それはないでしょうね」
「問題は」とYは続けた。
「医師たちが、臨床試験の結果を掲載した論文に、中外製薬の資金が入っていることを申告しなかったことですよ。それをしておけば、問題ないじゃないですか。しないからややこしい話になる」
しかし、中外製薬のカネの流れを指摘した乳腺外科医の尾崎章彦(34)は、臨床試験に参加した医師で、上司でもある大野真司にこういわれている。「中外の寄付金は紐づいていない。誹謗中傷だ」と。
臨床試験に参加した専門医たちは、中外製薬の紐付きだったことを知らなかったということはないだろうか。
そう尋ねると、Yはにやりとした。
「それは……それはないでしょうね」
私たちは、臨床試験に参加した乳がん専門医の重鎮たちを取材することにした。
診療にあたる尾崎章彦=2019年12月6日、福島県いわき市常磐上湯長谷町上ノ台
(敬称略)
=つづく
【関連データベース】
マネーデータベース「製薬会社と医師」
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