ワセクロの五感

振り返る心(25)

2020年10月20日6時49分 Tansa編集部

京都南禅寺からさほど遠くないところに、永観堂というお寺がある。そこの本尊はちょっと変わっている。阿弥陀如来像なのだが、正面を見ていない。通称「みかえり阿弥陀」と呼ばれている通り、振り返っている姿だ。左肩越しに振り返るその姿は、とても優しい。後ろにいる修行者に声を掛けた姿だそうだが、決して厳しい姿ではなく、穏やかで、優しさに満ち溢れている姿。私の好きな仏像の一つである。

この仏像を見て、何を想像するかは人それぞれだと思う。「あれ?」と、何かを思い出したのかもしれない。「すみません」と誰かに声を掛けられたのかもしれない。「ん?」と何かに気付いたのかもしれない。いずれにしても、ふとした瞬間に立ち止まり、振り返る心を持てないほど、日々せわしなく、自分は行動しているような気がする。

もしかしたら、人混みの中で誰かが助けを求めているかもしれない。いつも歩いている道に新しい店ができているかもしれない。目の前のことに精一杯で、何か大切なことを忘れているかもしれない。

立ち止まり、振り返る心を失わないようにしたい。

数日前、友人と笑いながら歩いていたら、ふと花の香りがした。気にも留めずに通り過ぎようとしたら、友人が「あれ?金木犀だ」と言いながら、木に近づいていく。

そうそう、その気持ち。苦笑いしながら一緒にスマホで撮影した。

荒金教介

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