ワセクロの五感

引越し(24)

2020年10月12日6時47分 中川七海

ついに、上京後4年間住んだ家を引っ越す。宿替えの経験は何度もあるが、今回ばかりは、しんみりした気分だ。きっと、一緒に住んでいる友人と離れ離れになるからだろう。彼女とは、学生時代から不思議な縁があった。

初めて出会ったのは7年前、私が神戸で大学生活を送っていた時だ。その頃の私は、よく東北へ足を運んでいた。仙台、石巻、南三陸、気仙沼、陸前高田、宮古、盛岡…。ボランティアでもサークルでもなく、週末にふらっと行き、知人に会ったり街を歩いたり、美味しい東北飯を食べて帰る。彼女もそんな学生の一人だった。同じ神戸の大学に通っていることもあり、友人伝いに知り合った。だけど特段親しくなったわけでもなく、顔と名前が一致する程度だった。

だがそれ以降、不思議な場所でよく遭遇した。知人に誘われ屋久島へ行くと、なぜか彼女がいた。彼女も知人から誘われていたようだ。たまたま相部屋になり、私たち以外の参加者は社会人だったため、学生同士、話が弾んだ。

別の知人に誘われ、加藤登紀子のコンサートの手伝いをしたこともある。コンサート会場へ行くと、私以外に学生が5人ほどいた。そのうちの一人が彼女だった。

社会人になり、私は上京した。もともと別のルームメイトと2人で住んでいたが、1年半経ち引っ越してしまった。ちょうどその頃、彼女が転職で東京に来るという話を耳にした。「よかったらうち来る?」「いいの?」二つ返事で入居が来まった。

起きる時間も、食事の時間も、仕事も違う2人。だけど、なんだか上手く噛み合い、2年間楽しい毎日を過ごした。

今年1月、ワセクロを知った。ワセクロに入って探査報道ができる記者を志すか、合格していたアメリカの大学でジャーナリズムを学ぶか、彼女に相談した。「正解はわからない。でも、七海の話しぶりから、ワセクロを選びたがっているように感じるよ」と一言くれた。私の中にある答えを引っ張り出してくれたのだ。迷っているぐらいなら、とコイントスで決めることにしたが、コインがどこかへ飛んでいってしまい、2人で家の中を探し回った。

彼女はもうすぐ北欧へ引っ越す。念願だった海外生活をするそうだ。私は、新しいルームメイトは探さず一人暮らしをする。彼女とは、きっとまたどこかでバッタリ遭遇するだろう。

リポーター 中川七海

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