ワセクロの五感

ポジティブな声で満たして。暗い記憶を上書きした笑顔。(3)

2020年03月31日14時31分 千金良航太郎

ポルトガル旅行で、繁華街の裏路地に迷い込んだ時のことだ。4人組の若者が寄ってきて私の手に紙袋を押し付けた。「買ってけよ」とニヤニヤしながらいう。ドラッグだと分かったので、押しのけて裏通りを抜けようと足取りを早めた。

彼らは大声で笑いはじめた。振り向くと、猿のモノマネをしている。アジア人に対する差別だな、と気持ちが沈んだ。

あれから2年。先日、再びポルトガルを旅した。今度は駅で軽い人だかりに囲まれた。券売機の使い方が分からない私に、みんなが切符の買い方を教えに集まってきてくれたのだ。気づいた時には大騒ぎになっていた。

言葉は通じないが、お互い笑顔だけで気持ちが通じ合う。心のわだかまりが溶けていくのを感じた。ポルトガルで2年前に抱いた暗い気持ちは、今回の旅で上書きされた。

私は今回のポルトガル旅行で、ジャーナリストの伊藤詩織さんの言葉を思い出した。

「マイナスな言葉を見つけたら、どんどんポジティブな言葉で埋めて欲しい。マイナスな言葉に埋もれてしまわないように」

性暴力を受けた伊藤さんが昨年12月、裁判の一審で相手方に勝訴した後の報告集会での言葉だ。私はワセクロのメンバーと昨年10月、ドイツで開かれた世界探査ジャーナリズム会議に参加し、伊藤さんにお会いした。伊藤さんの勇気に心を打たれ、この報告集会にも参加していた。

伊藤さんの言葉は、報告集会で受けた支援者からの「ネットを見るとあなたを中傷するネガティブな言葉ばかり。私たちには何ができますか」という質問への答えだ。

人の気持ちを沈める言動はどうしても目立ってしまう。でもだからそれを上回る「ポジティブな言葉」を繰り出していかなければと思う。券売機で助けてくれた人たちの笑顔で、ポルトガルでの暗い記憶が溶けていったことを忘れない。

リポーター 千金良航太郎

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