プレスの自由のために

マリア・レッサ インタビュー「脅しには屈しない」

2020年07月07日17時54分 アナリス ガイズバート

(読むために必要な時間) 8分30秒

ワセダクロニクルは、ラップラー(Rappler)の編集長兼最高経営責任者であるマリア・レッサ(Maria Ressa)さんに2020年6月26日、インタビューしました。その月の15日に受けたサイバー名誉毀損法の有罪判決や、ラップラーに対するドゥテルテ政権からの攻撃、そしてどのようにしたら私たちは民主主義を守ることができるかを聞きました。

判決を受けて、あなたのこれまでの考えは変わりましたか?

いいえ。判決に対して、異議申し立ての準備をしている時に更に怒りが込み上げてきました。 私に有罪判決を下すために、「こんなことが法廷に持ち込まれなければならないのか」というようなありとあらゆる法のねじ曲げを経験しました。

サイバー名誉毀損法で有罪になった記事は2012年のものです。当時弾劾されていた最高裁判所の長官が、実業家の所有する高級車を貸与されており、両者の癒着について報じました。公共の利益にかなう記事です。

国家捜査局は当初、名誉棄損の時効期間が1年であることを理由に実業家の告訴を棄却しました。

ところが政府は、名誉毀損の時効を1年から12年に変更しました。国家捜査局は実業家に再び私に告訴させました。

政府は「再出版」の定義も変え、単語の中の1つの文字を修正するだけで「再出版」として扱うようにしました。これが自分の裁判でなかったら、笑ってしまいますね。

裁判官は、ラップラーの探査報道セクションのトップで記事の編集者が証言することを却下し、私に証言するよう要求しました。 私はこの記事に関わっていなかったので又聞きの域を出ず、そこはうまくいきませんでした。

判決を受け入れて、執行猶予が適用されれば実際に刑務所で1日も過ごさないで済むようにすることもできます。

しかしこの支離滅裂な判決を受け入れるなんてあり得ません。とにかく法廷で闘い、いずれ正義を勝ち取ります。これは信念の闘いなのです。

ラップラーのメンバーは、容赦ない探査報道を引き続き行い、私たちが脅しに屈しないことを証明しています。なぜ自分たちが闘っているのかを理解しているからです。誇りあるチームです。

前向きな姿勢に敬服します。

闘うことに選択の余地はありません。

自分のことだけなら、たぶん沈黙するでしょう。 しかしこれは、私たちがゼロから創り上げたラップラーの問題であり、プレスの自由と民主主義の問題でもあります。5月5日にはフィリピン最大の放送局が閉鎖されました。政府が権力の乱用を制度化し始め、私たちはまさに崖縁に立たされているような気がします。闘いに負ければ、私たちの民主主義が何千もの切り傷を負って死ぬようなものなのです。

私は4年前からこう言っていました。 決めた一線から決して退いてはいけないと。フィリピンの憲法に基づく私たちの権利の一線がここにあるとすれば、政府がブルドーザーで私たちを後方に押しやろうとしても、私たちがやらなければならないことは、一線から退かないことです。自分の権利を自ら放棄してはいけないのです。

判決後、裁判所を発つレッサさん。(C)写真提供:アンジー・ド・シルビア(Angie de Silva)/ラップラー(Rapper)

これまでのラップラーに対する攻撃の原因は何でしたか?

2つの探査報道のシリーズです。

1つ目は、ドゥテルテ政権の「麻薬撲滅戦争」についてです。 麻薬の捜査の過程で殺害した人数を、政府が書き換えて発表している理由を暴きました。

2つ目は、「プロパガンダ戦争」シリーズです。ソーシャルメディアやフェイスブックは公共圏を巧みに操る「兵器」としてどのように使われてきたのか。ソーシャルメディアの世界で100万回うそを言うと、それが事実になります。 そしてそのうそが、私たちが生きている現実をリードするようになります。市民運動に見せかけてある主張が大量に組織的に投稿され、合意が捏造されて、それがたとえば麻薬戦争やドゥテルテ大統領への支持などに与える影響を想像してみてください。

プロパガンダ戦争シリーズを報道した途端、ラップラーのメンバー全員がオンライン上で猛攻撃を受けました。ヘイトメッセージは1時間あたり約90件、想像もしなかったほどの規模で打ちのめされました。

「プロパガンダ戦争」シリーズの1年後、最初の召喚状が届きました。ドゥテルテ大統領が2017年に一般教書演説の中で「ラップラーは外国資本のニュース組織だ」と述べた1週間後です。

私はこれまで11件で訴追され、8件で逮捕状が出ました。逮捕されたのは2回、1度は身柄を拘束されました。

しかし私は1986年から現在までジャーナリストとしての活動以外は何もしていません。 攻撃してくる相手は、明らかにジャーナリズムを犯罪に仕立て上げているのです。

2019年、私はドイツのハンブルクで開催された世界探査ジャーナリズム会議で基調講演を行いました。 会場には1,700人の筋金入りの探査ジャーナリストたちがいましたが、私たちがどのように生きのびてきたのかを話し始めたときに場内はシーンと鎮まりかえりました。

私たちは共に心の中で泣いたのです。私たちは、自分たちの仕事を成し遂げるために、この時代がどれだけのことを私たちに要求しているのかを理解しています。

世界中のジャーナリストが、私に起こっていることが自分たちに起こる可能性があることを認識していると思います。落ち着かない気持ちで感情移入しているでしょう。

 民主主義を蝕まないオンライン上での言論空間を創造するには、何が必要だと思いますか。

ジャーナリストは、技術に対して門番としての能力を失いました。ゲートキーパーが必要です。 事実よりも速くうそを広めさせてはなりません。

フェイスブックは現在、世界最大のニュース配信元です。 しかし、そのプラットフォームの設計は、怒りと憎しみで粉飾された嘘が、面白味のない事実よりも速く広がることを許しているのです。

私たちは職業人としての経歴すべてを費やして、興味を持って事実を見てもらえるように、良い記事の伝え方を学んできました。 ところが、この情報エコシステムでは、嘘は事実よりも速く拡散しています。 それがすべてを変えてしまいます。事実に疑問があれば、信頼は得られません。真実も得られません。事実、真実、信頼がなければ、民主主義は得られません。

私は、ネット上にうその情報が氾濫する「インフォデミック」に対する体系的な解決策を模索しているワーキンググループの共同議長です。 これはグローバルな取り組みで、ジャーナリストやエンジニア、アーティストなどあらゆる分野の出身の人たちが必要です。

フィリピン国外のジャーナリストや市民は、あなたやラップラーを助けるために何ができますか?

私たちの話をみんなに伝えてください。 スポットライトで照らしてもらえることで、私たちは生き残ることができます。たとえ私が刑務所に行ったとしても、私を忘れないでください!半分、冗談ですよ。でも、絶望的な状況の中でユーモアを発することが一番の対処方法です。

ラップラーは裁判にかかる費用で苦しんでいます。政府は消耗戦に持ち込む作戦なのです。グーグルで探せば、ラップラーのクラウドファンディングを見つけられるので、協力をお願いします。私たちがジャーナリズム活動を継続する支えの一つです。

まずは自分の身近なところから始めてみてください。 あなた自身の民主主義を守ってください。 すべての世代の人はそれぞれ自分自身のために民主主義を築いてください。

気をつけてください。あなたの権利を立ち上がって使わないと、その権利を失くしてしまうかもしれません。 あっという間に粉々に砕け散ってしまうかもしれません。

この闘いは静的なものではありません。私は本当に生き生きと学びました。 私たちは、私の世代が生み出した瓦礫の世界の上に立っています。 そして今、若い世代の人は私たちよりも良い世界を創造しなければなりません。

有罪判決を受けた後、メディアの取材に応じるマリアさん。(C)写真提供:アレックス・オンカル(Alecs Ongcal)/ラップラー(Rapper)

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