大阪・摂津市のダイキン工業淀川製作所周辺の住民9人の血液中から、非汚染地域の数十倍の濃度の毒性化学物質「PFOA(ピーフォア)」が検出された。最も高い人で70倍を超える。京都大名誉教授の小泉昭夫(環境衛生学)が10月23日に住民から採血し、血液の分析を行っていた。
PFOAは、フッ素加工のフライパンや化粧品など幅広い製品に使われている化学物質だ。発がん性や、胎児が吸収すると低体重児として生まれる危険性が世界中で指摘されており、日本ではこの10月に経産省が製造や輸入を禁止したばかりだった。ダイキンの淀川製作所では1960年代後半からPFOAを製造していた。
研究者「地域一帯が汚染されています」
11月8日、淀川製作所から7メートルの場所に畑をもつ男性(69)のもとに、小泉氏からメールで検査結果が届いた。環境省が2020年に公開した全国調査の結果で、摂津市の地下水から国内最高値のPFOAが検出され、住民の不安は高まっていた。このため、男性ら9人で小泉氏の検査を今年10月23日に受けたのだ。
恐る恐るメールを開いた男性はショックを受けた。自身の血液から、非汚染地域の住民の38倍のPFOAが検出されたのだ。男性は、祖父が戦前から耕してきた畑で、井戸水を使い農作物を育ててきた。生まれた時から、畑の収穫物を食べ続けてきた。男性は言う。
「昔から、畑いじりが楽しみやってんけどね。採れた野菜は、家族で食べていました。もう自分は歳やから諦めますけどね、子どもや孫たちが心配です」
男性だけではなく、今回の検査を受けた9人全員から高濃度のPFOAが検出された。最も高かった住民は、非汚染地域の住民の70倍だった。小泉氏は次のように解説する。
「食べた量に加え、田畑の場所や作物の種類によって検出量は異なりますが、この地域一帯がPFOAに汚染されているのは明らかです」
2021年10月23日に行なわれた住民の血液検査=大阪・摂津市で(撮影/中川七海)
米国・EUの研究で「先天性疾患や低体重児の原因」
PFOAは「ペルフルオロオクタン酸」の略称で、人工的に作られた有機フッ素化合物だ。水や油をよく弾く。1950年代以降、調理器具や防水製品のコーティング材として重宝された。フッ素加工の「焦げ付かないフライパン」は、世界中で大ヒットした。
しかし1970年代以降、発がん性をもち、幼い子どもや胎児の発達にも影響を与えることが、アメリカやEUでの研究で明らかになってきた。PFOAを多く摂取していた母親から低体重の子どもが産まれたケースや、先天性の疾患をもっていたケースが報告されている。
2019年、PFOAは国際条約でもっとも危険なランクの物質として認定され、現在は製造や輸入が禁止されている。2021年10月には、経産省もPFOAの製造や輸入を禁止にした。
ダイキン、水環境汚染は「弊社が原因の一つの可能性」
ダイキンと行政は、PFOAによる淀川製作所周辺の汚染を遅くとも2009年から把握していた。同年から2021年11月までに、ダイキン、摂津市、大阪府による21回にわたる3者会議が開かれている。そこでは、PFOA汚染への対策が話し合われてきた。
しかし、ダイキンと行政は住民に工場からの汚染の実態を知らせなかった。
例えば2020年6月、摂津市内の地下水から、環境省が定める目標値の28倍のPFOAが大阪府の調査で検出された。同月30日に開かれた第19回3者会議の議事録によると、ダイキンの担当者は次のように述べている。
「(ダイキン淀川製作所の)敷地内の濃度は公表してほしくない」
今回は、住民9人の血液から高濃度のPFOAが検出された。ダイキンは責任についてどう考えているのか。コーポレートコミュニケーション室広報グループに取材したところ、次のように回答した。
「地域住民の血中からPFOAが検出されたとのご質問に関しては、その十億分の1レベルの検出方法や精度について、弊社にて確認できていませんので、コメントは差し控えさせていただきます」
「弊社はPFOAを過去に製造・使用していた為、地域の水環境からPFOAが検出されたことは、弊社が原因の一つの可能性があるとの認識は持っております」
シリーズ「公害『PFOA』」を11月26日から開始
なぜ、住民の体内に蓄積されるまでダイキンはPFOAの製造を続けたのか。行政は何をしていたのか。PFOAを使用したフライパンなど、身近な製品は大丈夫だろうか。
Tansaはシリーズ「公害『PFOA』」を11月26日から始め、これらの問いを解き明かしていく。
(敬称略)
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