誰もいなくなった景色が好きだ。ほんのり体温の残るソファー、閉めるのを忘れられたドア、ほんの少し前まで誰かがいたのに、今はもう誰もいない。そんな孤独なものたちとファインダー越しに向き合っていると、無性に落ち着きを感じる。物言わぬソファーやドアが、孤独でいることを肯定してくれている気がするからだ。
小学校から中学校にかけて、持病で学校に通えない時期があった。肌の病気で顔に湿疹が出てしまうため、「ぶつぶつ」などと呼ばれていじめられた。たまに登校できても今度は「不登校が来た!」とからかわれる。いじめで孤立するのが怖い。クラスのリーダー的存在に媚び、仲間に入れてもらおうともしたこともある。そんな自分が情けなく、自己嫌悪に陥った。
私を救ってくれたのは、父だった。「孤独でいることは悪いことじゃないよ。一人でいる時間は本をたくさん読んで自分を高めなさい。孤独を愛してやりなさい」。一人でいることを肯定してくれる言葉だった。他人の目ばかり気にして生きていた私は、初めて自分をもっと大切にしようと思った。
以来、本をたくさん読んだ。司馬遼太郎の「坂の上の雲」では志を持って生きることを学び、梨木香歩の「西の魔女が死んだ」では、自分らしく生きることの素晴らしさを知った。
小説に出てくる言葉を咀嚼していく作業は孤独だけれど、一人で過ごす時間が好きになっていった。孤独が自分を高めているという思いが、自信を与えてくれるようにもなった。
今では、一人きりの時間の過ごし方は、読書よりも写真を撮りに出かける方が多い。私が撮るのは、誰もが「いいね」を押したくなるような景色ではない。しかし、私にしか見つけられない世界があると信じている。誰にも気づかれず、ひっそりとたたずものたちに、静かにフォーカスを合わせる。孤独だけれど、満ち足りた時間だ。
リポーター 千金良航太郎
ワセクロの五感一覧へ