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認知症の治療薬を販売する製薬会社6社から、香川大学医学部精神神経医学講座の中村祐教授が、年間1900万円以上の報酬を得ていた。2016年度と2017年度の製薬マネーデータベースからわかった。
国会にも提出された時事メディカルの記事によると、中村教授は2011年に承認された認知症治療薬の開発に深く関与したという。
6社のうち「メマリー」を販売する第一三共が、最も多額を講師謝金などで中村教授に支払っている。2016年度は910万円、2017年度は970万円だ。
中村教授と第一三共との関係はどうなっているのか?
メマリー承認の企業治験に参加
中村教授は、第一三共の「メマリー」の開発に関わっていた。
中村教授を筆頭筆者として、2011年の老年精神医学雑誌に掲載した論文にそのことが示されている。タイトルは「新規NMDA受容体拮抗剤であるメマンチン塩酸塩の中等度から高度アルツハイマー型認知症に対する第Ⅲ相試験」
末尾に次の記載がある。
「本論文は第一三共株式会社によるメマンチン塩酸塩(商品名:メマリー)を用いた第Ⅲ相試験として実施された結果のまとめである。筆頭筆者は本試験にはプロトコール検討委員として参加した」
「第Ⅲ相試験」とは、薬の審査をする当局「独立行政法人医薬品医療機器総合機構」(PMDA)から承認を得るため、人体で薬を試す最終試験のことだ。プロトコールとは、薬を試す試験の手順や決まり事を定めたものをいう。
中村教授は自らが参加した第一三共の試験について、論文にしたのだ。
評価項目以外のデータ使い「効果あり」
論文では、メマリーを高く評価している。
「中等度から高度アルツハイマー型認知症患者の認知機能障害に対して有効性を示し、安全性は高く、行動・心理症状(BPSD )にも有効性を示すことを特徴とする薬剤であると考えられた」
だがこの試験では、記憶力など認知機能の改善に関しては、薬を投与した人としなかった人の間では差が出たものの、徘徊や暴力性の出現など「認知機能の低下以外の症状全般」では明確な差が出なかった。
それを中村教授の論文は、認知機能の低下以外の「症状全般」ではなく、「一部の症状」が改善したとのデータを取り上げ、メマリーに高評価を与えている。試験では「一部の症状」は、薬の有効性の評価項目として設定されていない。
評価項目になっていない症状の改善を、薬の効果の根拠にするのは「ごまかし」ではないのか。
兵庫県立ひょうごこころの医療センターの小田陽彦・認知症疾患医療センター長は「粉飾論文だ」と指摘する。
「試験は『認知機能』と『症状全般』を主要な評価項目として設計されている。薬剤を投与した人としなかった人の間で、片方の評価項目だけでしか統計的な有意差が得られなかった場合は、薬剤に有効性なしと考察するのが科学的に妥当だ。論文の結論には『粉飾』がある」
PMDAの審査専門員を務めたことがある内科医の谷本哲也氏は、この論文を読んでいう。
「野球に例えるならば、試合には負けたが、ヒットは打ったと主張しているようなものだ」
第一三共「製品の適切な情報提供のため講演料多くなる」
ワセクロは中村教授に香川大学医学部の広報を通じて取材を申し込んだ。だが「取材は辞退する」との返事だった。
質問状を送ることにした。第一三共をはじめ認知症薬を販売する製薬会社から多額の副収入を得たこと、メマリーの論文での評価、フランスでメマリーと同種の認知症薬が医療保険の適用から外されたことなどへの見解を尋ねる内容だ。
だが回答も「辞退する」との返事が来た。
第一三共は中村教授との利害関係についてどう考えるのか。講師謝金など多額の金銭を支払っている上、メマリーの「添付文書」で中村教授の論文を主要文献にしている。添付文書は薬の効能や副作用について製薬会社が説明する公的な文書だ。
眞鍋淳社長あてに質問状を出すと、広報を通じて回答が来た。多額の講師謝金については以下のように説明した。
「製品の適切な情報提供を行うために、適正使用の普及を目的とした講演会を実施しており、当該専門領域の医師に対する講演料の支払い件数が多くなっています。
当社は、これからも製薬協が策定した『企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン』の主旨に賛同し、医療機関等との関係においては、企業活動が医学・薬学をはじめとするライフサイエンスの発展に寄与していること、および高い倫理性を担保した上で行っていることを広く理解してもらえるよう透明性を確保し、信頼性の向上に努めてまいります」
中村教授の論文の中身については「コメントする立場にない」という回答だった。
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