製薬マネーと医師

製薬会社から3年連続1000万円超66人、計5000万円超は19人/製薬マネーデータベース2018公開

2021年08月27日17時03分 齊藤林昌、荒川智祐、佐野誠、辻麻梨子、中川七海、渡辺周

【3年間で計5000万円超を受領した医師】(肩書きは2018年度当時、敬称略)

Tansaと医師らがメンバーのNPO法人医療ガバナンス研究所は8月27日、製薬会社から医師や医療機関に支払われた金銭を検索できる「製薬マネーデータベース」の2018年度版を公開した。

データベースは2016年度版から公開しており、Tansaは3年度分のデータを集計した。

講師謝金などの名目で、製薬会社から3年連続で1000万円以上の副収入を得ていた医師は66人。そのうち3年間の合計が5000万円を超える医師が19人いることがわかった。

製薬会社からそれほど高額の副収入を得ている医師とは、いったいどのような人たちなのか。

製薬会社主催の講演会は医師向け

製薬会社が医師個人に支払っている金額の内訳では圧倒的に講師謝金が多く、約8割を占める。残り2割はコンサルティング料や、製薬会社のパンフレットなどの原稿料だ。

講師謝金というのは、講演会で講師を務めた時の報酬のことだ。

講演を主催するのは製薬会社で、講演を聴きに来るのは医師。医師たちが、疾患や薬についての知識を講師役の医師から得るというのが名目だ。

だが製薬会社の社員や営業経験者によると、自社の薬に有利なことを講演会で話してもらうことを目的にしている場合がある。製薬会社の売り上げの約9割は、医師の処方箋が必要な「医療用医薬品」だ。講演を聞いた医師たちが、自分の患者に処方箋を書くとき、自社の薬の処方箋を書いてもらう狙いがあるのだ。講演会はよく高級ホテルで開催される。

そこで製薬会社は、医師の間で影響力が大きい「キー・オピニオン・リーダー」(KOL)と呼ばれる医師に講師を依頼する。

具体的には、大学教授や疾患別の学会幹部、推奨薬など治療法をまとめた診療ガイドラインの作成委員らがKOLにあたる。

3年連続で1000万円超を製薬会社から得た66人のうち、今現在を含め、学会幹部、大学教授、診療ガイドラインの作成担当者を務めた経験のある医師は、以下の通りだった(1人で複数の肩書きを持つ場合も含む)。

学会幹部 52人

大学教授 49人

診療ガイドライン委員 42人

薬のマーケットが大きい疾患に集中

高額の金銭が集中する医師の専門分野は何か。

3年連続1000万円以上受領の医師66人を分析すると以下のような結果になった。

糖尿病   20人

循環器   13人

リウマチ     5人

消化器    5人

高血圧    4人

肝炎     3人

血液内科   2人

皮膚科    2人

呼吸器内科  2人

そして、以下の分野は1人ずつだ。

認知症、精神科、感染症、漢方、乳がん、薬理、パーキンソン病、透析、前立腺がん、脳卒中

糖尿病や循環器病を扱う医師に高額受領者が多い理由について、製薬会社の営業経験者は説明する。

「マーケットが大きく競争が激しい分野で講演会が多く開かれ、製薬会社は多くの資金を費やす。例えば希少な難病などマーケットが小さい分野では、製薬会社主催で頻繁に講演会が開かれるということはない」

別の営業経験者はこういう。

「抗がん剤など明らかに薬によって効果が違う場合は、医師は効果がある薬の方を使うので営業の効果はあまりない。でも糖尿病の薬のように、種類が多い割にそんなに効果に差がない場合は、講演会で自社の薬の効果についての効果を、露骨な宣伝にならないよう語ってもらうことが多い」

高額受領の医師に国も対策

製薬会社から医師への高額な報酬については、国も対策を取っている。

例えば厚労省は、審議会で新薬を審査する医師に次のような規定を設けている。

①過去3年のうち審議に関係する製薬会社1社からの受取額が年間500万円を超える年度がある場合は審議に参加できない。

②審議に関係する製薬会社1社からの受取額が、年間50万円を超える年度がある場合は議決に参加できない。

この規定に照らせば、今回の3年分のデータ集計で発覚した医師の受領額がいかに高額か分かる。

また国会の衆院厚労委では2019年11月、製薬マネーデータベース2016年度版で大学勤務医を調査した結果を審議。1500万円以上を受領した医師が29人いたことから、国民民主党の議員が批判した。文科省の政務官も「社会的信頼を得ることが重要だ」と言い、医学部を持つ大学に規定を整備するよう求めると表明した。

これを受けて一般社団法人全国医学部長病院長会議は2020年11月27日、「製薬企業等からの謝金等の受領の在り方に関する提言」を出した。以下がその内容だ。

1)各施設において、教員が製薬企業等から謝金等を受け取る場合の適切な取扱い等を定めておく必要がある。

 

2)適切な取扱い等は、会員施設の個々の状況を勘案する必要があり、本会議として一律に具体的な条件を定めるのは困難であり、各施設が個々に定めるのが適当である。

 

3)企業からの依頼等については個々の事例で内容が異なるので、各施設の利益相反委員会が適切に管理するべきであることを推奨する。利益相反委員会がない施設では、それに代る委員会を設けるべきである。

 

4)謝金等の受領を管理する際は、社会への説明貰任を果たすため、透明性を持って行う必要がある。

 

5)適切な取扱い等を定める方法として、次のようなものが考えられる。上記の 1)~4)を満たすことを勘案して、個々の施設で検討すべきである

①それぞれの教員の本給を目安にする方法

②利益相反委員会で規則に則り管理する方法

③年問の上限額を決める方法

④年間の回数や時間数の上限を決める方法

⑤上記以外の適切な方法

今後は「講演回数減らし副収入減らす」医師も

では当事者の医師たちは、国会での審議や病院長会議での提言を受け、高額の副収入を得ていることをどう考えているのか?  Tansaは3年間で5000万円超を得た医師19人に、所属大学や病院を通して質問状を出した。

質問項目は以下の4点だ。

①製薬会社からの副収入が多い理由

 

②製薬会社からの副収入が、薬の処方や医学研究で、その製薬会社に有利な結果をもたらす可能性があるか

 

③講演会での講師など副収入を得る活動が、診療や医学研究など本業に支障をきたしているか

 

④今後、製薬会社からの副収入を減らす必要があると思うか。

19人のうち回答があったのは、以下の5人だ。

阿部雅紀・日本大学教授(透析など)

①主に講演会によるものです。

 

②製薬会社企画の講演会は事前のスライド審査などで厳しく規制されています。他社製品の誹謗中傷はもちろんのこと、当該製品に優位に働くような内容は含まれていません。また、講演内容は非専門の先生に対する疾患啓発が中心であり、疾患の患者背景、リスク因子、診断、治療に関する内容をエビデンスベースでお話しております。内容も論文化されいるものしか紹介できません。当院で採用されていない薬剤の製薬会社からの依頼もありますので、当該製薬会社に有利な結果をもたらす可能性はありません。患者さんの治療や予後の改善に貢献できれば、との思いで行っています。

 

③原則的に時間外の仕事ですので、診療および研究など本業に支障はきたしておりません。

 

④副収入を減らす必要はあります。御社が御指摘の通り、国会でも審議されており、社会的には「公正な職務に影響を与える」ととらえられる可能性があります。そのため、本件については既に本学本部からも注意を受け、本年からは回数の自粛および無償でも行うようにしております。

伊藤浩・岡山大学教授(心不全など)

①多くの場合、医師会からの講演依頼であり、教育のためです。

 

②特定の製薬会社に限定されたものではなく、多くの場合は、医師会を介して複数社からの講演に応じたもので、特定の製薬会社に有利な結果をもたらすことはありません。

 

③講義、診療、管理運営(会議出席等)及び研究も十分にされており、休講などの影響もありません。

 

④医師と産業界との産学連携による医学研究を進めるためには、社会の理解と協力を得て、企業と経済的な利害関係を一定要件のもとに開示し、研究の公平性と透明性を担保して社会に対する説明責任を果たす必要があると考えております。一方、今回の多くの場合は、医師会からの講演依頼によるもので、学会に出席する機会の少ないかかりつけ医あるいは病院勤務医にとって疾患の最新情報を得る場となっています。講演の内容は、病態の話が中心であり、その上で治療の選択肢を示すことにより、循環器疾患の治療に役立っていると考えます。大学教授の職責を考えた場合、一般市民の方を対象とした啓発目的の講演会等も大切ですが、このように医師を対象とした教育目的の講演会等については、医療の質の底上げのためには、とても重要な教育の機会であると評価しています。また、現行の岡山大学の兼業規程では、報酬額等についての明確な承認基準までは規定されていません。岡山大学としても、利益相反、責任相反の観点から見直すべき内容があれば検討しますが、兼業は、あくまでも勤務時間外に行うことが前提であり、過度な規制が、私生活上の過度な干渉とならないよう、承認基準の設定については、慎重な判断が必要であるとも考えております。また、兼業規程の見直しがあれば、当然その基準に従うことになります。

竹内勤・慶応義塾大学名誉教授(リウマチ)

①新薬の効能や副作用を正しく周知するために行った労働の適正な対価と考えております。

 

②収入に左右されることなく、公平性、透明性の高く、科学的にエビデンスに基づいた活動を行っております。当該製薬企業のみに有利に働くことはなく、情報にアクセスすることが少ない地域の医師や患者さん、それを支える家族の皆様を含めた社会全体のためになるように努めております。

 

③依頼された業務は、土日や、平日でも夕方以降に開催されるものが多く、本務に影響はございませんでした。

 

④社会全体のために必要な活動があれば、時間的な調整が可能であれば、これからも出来る限りの対応をしていきたいと考えております。

田中良哉・産業医科大学教授(リウマチ)

①学会などで実施されるセミナーの座長や演者を多く依頼されるため。

 

②どの会社のプロダクトであろうが、科学的根拠のみを重視して評価しているため、副収入などの影響は全く受けない。そもそも特定の企業のためではなく、患者への医療の適切な提供と医療の進歩を主目的としている。

 

③全て兼業届を提出し、勤務時間外での対応を基本としており、本業には支障をきたしていない。

 

④勤務時間外で相応の時間をかけて準備しており、正当な労働対価と考える。

横手幸太郎・千葉大学教授(糖尿病)

①脂質異常症、糖尿病、動脈硬化、高齢者医療、内科学一般等、専門とする領域が多岐にわたるため、講演や座長などを依頼される機会が多かったものと推察します

 

②企業等からの資金提供状況をすべて開示し、研究の公平性と透明性を担保して社会に対する説明責任を果たしており、一部の企業が有利になる可能性はないと考えています。

 

③講演会における講師や司会などの活動は、基本的に勤務時間外(土日・祝日または平日夜)に行っていましたため、休講などの本務(教育・研究・診療)への影響はありません。

 

④社会の理解と協力を得て産学連携による医学研究を推進するため、医学界と産業界の連携は医学・医療の発展のために必要な要素の一つと考えています。

他の医師は回答がなかった。

佐賀大学の野出孝一教授は、本人ではなく佐賀大学医学部が次のように回答してきた。

「本学としましては、国会での議論、文部科学省からの通達および全国医学部長病院長会議からの提言を踏まえて所属する各教員に周知しているところでありますので、この件に関しましてはこちらからお答えできることはございません」

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