公害「PFOA」

京大小泉・原田調査にふたをするダイキン/高濃度PFOA検出の住民が心配しても(12)

2022年02月18日18時00分 中川七海

2021年秋、ダイキン工業淀川製作所から1キロ圏内に住む男性9人が血液検査を受けたところ、全員から高濃度のPFOAが検出された。最も高い人は非汚染地域の70倍だった。

9人のうちの1人、吉井正人(仮名,69)は、製作所のすぐ近くで採れた農作物を日常的に食べていた。

「もう自分は歳やから、あきらめますけどね。子どもや孫たちが心配です」

PFOAに被曝した住民たちの不安が募る中、2021年12月、大阪・摂津市議団が淀川製作所を訪問した。PFOA汚染への対応を質すためだ。

ところがダイキンの回答は、市議団が思いも寄らないものだった。

ダイキン工業淀川製作所=2021年11月15日撮影

ダイキン社員兼市議が視察団を出迎え

2021年12月9日朝9時半過ぎ、摂津市役所前に1台のマイクロバスが横付けされた。乗り込んだのは6人。摂津市議会で民生常任委員を務める超党派の議員たちだ。

市議団はダイキンの淀川製作所へ視察に行くところだった。

前年の6月、環境省の調査で、摂津市の地下水が全国一のPFOA濃度であることが判明した。それ以降、京都大の名誉教授・小泉昭夫と准教授・原田浩二が住民の血液や農作物のPFOA濃度を調査し続けている。市内のPFOA汚染は、報道や議会での追及により、少しずつ市民が知るところになっていた。

6人を乗せたバスは、15分ほどで製作所に到着した。バスを降りた一行は驚いた。ダイキン職員に混じって、同じ摂津市議の三好義治が立っていたからだ。三好は「お〜う! 」と手を挙げ、6人を出迎えた。

三好はダイキン労働組合が推薦する市議だ。1989年に初当選して以来、ダイキン社員としての籍を残しながら、9期連続で市議を務めている。社員と市議のどちらの立場で仕事をしているのかTansaが問うた時、「どれを選ぶというか、その時その時の判断基準があると思う」とお茶を濁した。本シリーズの第3回『ダイキンさんはありがたい』で登場した。

ダイキン「発がん性は漬け物程度」

朝10時、市議団は、テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)棟の会議室に通された。正面にはスクリーンが用意され、2列の長机が並ぶ。正面に向かって右側に市議団が、左側にダイキンの担当者たちが、向かい合うように座った。

参加者は次の通り。

摂津市民生常任委員   香川良平(大阪維新・委員長)

            水谷毅(公明・副委員長)

            増永和起(共産)

            南野直司(公明)

            光好博幸(自民・市民の会)

            森西正(無所属)

ダイキン労組推薦市議  三好義治(立憲民主・市民連合)

ダイキン工業      小原令久(淀川製作所副所長)

            小松聡(化学事業部企画部・環境技術渉外専任部長)

            

まずは淀川製作所副所長の小原令久があいさつに立った。市議たちも自己紹介を済ませる。

10時10分、PFOAに関する説明が始まった。マイクを握ったのは、化学事業部企画部・環境技術渉外専任部長を務める小松聡だ。パワーポイントを使いながらPFOAについて、「発がん性は『あるかもしれない』程度」で「漬け物と同じ」などと説明した。

一通り説明を終えた後、質疑応答が始まった。

市議側は、すでに検査を受けた9人全員の血中から高濃度のPFOAが検出されていることを気にしていた。

「安全安心の観点から、近隣住民の健康調査を実施すべきだと考えますが、御社の対応は? 」

ダイキンが答える。

「住民の方の血中から高濃度のPFOAが検出されたとのことですが、測定方法や分析精度が不明であり、また基準値もないため、当社からのコメントは差し控えさせていただきます」

血液検査を実施したのは、京都大名誉教授の小泉昭夫率いる調査チームだ。20年前から、PFOAによる全国の環境汚染や人体への曝露について調査を続けている。2004年には、淀川流域での世界最悪レベルのPFOA汚染を明らかにし、汚染源がダイキンであることを突き止めた。 

ダイキンの見解について、小泉は語る。

「この分析は非常に精度が高く、世界標準のレベルです」

主に測定・分析を担った原田も同様だ。

「世界標準の血液試料『NIST SRM 1957』を分析して、正確な濃度を再現できています」

ダイキン、「飲めるほどキレイなPFOA処理水」は撤回

他の質問にもダイキンは回答をはぐらかした。

Tansaの取材に、共産党市議の増永が語る。

「ダイキン敷地内のPFOA濃度を聞いても答えませんでした。『濃度は下がってきている』というふうに、抽象的に答えるんです。これでは汚染の実態はわかりません」 

ダイキンの的を射ない回答に、増永は質問を重ねたが、時間切れを告げられた。残りの質問には、後日書面でダイキンが回答することになった。 

一行はTIC棟を離れ、バスで製作所内を移動した。PFOAの処理タンクの前に到着すると、市議団はバスから降りるよう指示を受けた。PFOAの除去システムを説明するダイキンの担当者が言った。

「処理を終えた水は、飲めるほどキレイな水です」

11時半過ぎ、全ての行程が終了した。

市議6人は、市役所へ戻るバスに乗り込んだ。三好は市議たちに、「おつかれ〜! 」と声をかけ、ダイキンに残った。

三好義治議員=2021年12月7日撮影、摂津市役所にて

年が明け、視察から3週間後の2022年1月31日、市議団の元にダイキンから書類が届いた。

一つは、「民生常任委員現地視察における弊社不適切表現の撤回について」と題された文書だ。差出人は、執行役員兼淀川製作所長の村井哲だった。

PFOA処理タンクの前で担当者が言った「飲めるほどキレイな水」という表現が不適切だったとし、撤回した。

もう一つは、市議団からの視察当日と追加の質問への回答一覧だ。全33問に対するダイキンの主張が綴られていた。

そこには、驚くべきダイキンの今後の方針が記されていた。

=つづく

(敬称略)

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