公害「PFOA」

ダイキン工場から45メートルに小学校、農作業体験の野菜とコメを持ち帰り(5)

2021年12月24日15時00分 中川七海

血液から高濃度のPFOAが検出された摂津市の住民は皆、ダイキン工業淀川製作所近くの田畑の作物を食べていた。工場から流れ出たPFOAが田畑の土壌に蓄積した。

住民への対策に窮した摂津市長の森山一正は、環境省に現状を訴えたが「直ちに健康に影響があるとは限らない」と突き放された。

ところが、そんな悠長な対応を摂津の住民が受け入れられない問題があった。工場のすぐ近くにある小学校では、校庭で栽培した野菜や、近所の田んぼで稲刈りしたコメを児童が持ち帰っているのだ。

この秋に稲刈りをした田んぼは、高濃度のPFOAが検出された住民の畑のすぐ隣だった。

衝撃を受けた親「家で子どもが収穫物を食べている」

摂津市立味生(あじふ)小学校は、淀川製作所から45メートルの位置にある。全校児童は287人*。校庭の一角では野菜を栽培し、5年生は毎年秋になると地元の田んぼで稲刈り体験をする。収穫した野菜やコメは子どもたちが各家庭に持ち帰り食べることになっている。

しかし2020年6月、環境省による地下水や河川の調査で全国最高濃度のPFOA汚染を摂津市が記録する。京都大名誉教授の小泉昭夫による住民への血液検査では、工場近辺の田畑の作物を食べていた住民たちから非汚染地域の数十倍のPFOAが検出された。

驚いたのは、味生小の保護者たちだ。

2021年6月7日、保護者3人は連名で市長の森山、市教育長の箸尾谷知也、味生小校長の大﨑貴子に対して「味生小学校のPFOA汚染調査を求める要望書」を提出した。

この間の国や大阪府の調査により、味生小学校区で全国一高い濃度の有機フッ素化合物「PFOA」が検出されたことがわかりました。PFOAは発がん性などの重大な健康被害が懸念される物質です。大阪府や摂津市は「周辺の地下水は飲用利用がない」として、それ以上の調査や対策を行っていません。

 

しかし、味生小学校のすぐ近くの住民の所有する畑の土壌や作物からも、またその住民の血液からも、井戸水を飲用していないにも関わらず、高濃度のPFOAが検出されたとの報道がありました。私たちはたいへん衝撃を受けました。こどもたちは小学校内でつくった農作物を持って帰り、家庭で食べるということを行っているからです。

 

PFOAは大人以上にこどもへの影響が強いともいわれています。私たちは親として、こどもたちが毎日通う味生小学校の汚染状況はどうなのかが大変心配です。水や農作物、畑・グランド等の土壌など全般的な味生小学校のPFOA汚染の状況を早急に調査していただくことを強く要望します。

高濃度PFOA検出畑の隣で今年も稲刈り

保護者の要望に対し6月30日、市長の森山と市教育長の箸尾谷は文書で回答した。

調査については国と大阪府に対応を任せ、摂津市独自では実施しない旨が綴られていた。

味生小の農作業体験ついては、以下の通り回答した。

味生小学校では、学校敷地内の一部において、園芸用の土や肥料を混ぜて盛った畝(うね)、あるいはプランターで、花や野菜について学んでおります。また、水やりについては水道水を使用している状況でございます。植物の栽培につきましては、今後も教育活動として実施する方向で考えており、PFOAにつきましては、関係部署と連携し、情報の収集に努めてまいります。

市長の森山と教育長の箸尾谷は、保護者たちが学校のすぐ近くの畑で高濃度のPFOAが出た件も質したにもかかわらず、その点は無視した。稲刈り体験は今年も10月14日、5年生56人が参加して実施された。場所は、高濃度のPFOAが検出された畑の隣だった。

「落とし所」を探る校長

味生小の児童を預かる現場の責任者、校長の大﨑はどう考えているのか。収穫したコメは、田んぼの持ち主が脱穀や精米をして学校に届けられるまで約1カ月ある。子どもたちがまだコメを持って帰っていない11月19日、Tansaは大﨑を味生小で取材した。

―どうして保護者からのPFOA汚染に関する調査要請を断ったのか。

「断ったという風には思っていません。要望書は市長、教育長、私宛にいただきましたが、最後の回答は教育委員会の結果としてお出しするものだと思っていますので」

―稲刈りしたコメについて、保護者にPFOAの危険性や含有の可能性を伝えるのか。

「必要があるならば、心配があるということであれば伝える」

―すでに保護者は心配し要望書まで出している。説明する必要があるのではないか。

「地主の方がどうお考えか突っ込めないところもありますので。地主の方に体験の場を設けていただいている取り組みの中では、今の状況の中で落とし所というか、みんなが納得しながらこの目的を叶えるための道筋というものを」

―第一に考えるべきは子どもたちの命や健康。地主との落とし所なんて悠長なことを言っていられないのではないか。

「各ご家庭の考えも出てくると思います。例えば、『お米は結構です』なのか『いただきます』なのか」

―その判断材料を渡す責任が学校にあるのではないか。

「説明しない可能性はできるだけ排除したいとは思っています」

―では、稲刈り体験のコメは配布するのか。

「私の今の意向としては、提供する方が可能性としては高いです。ご家庭で判断するための情報提供も加えて」

―(摂津市で全国最高値のPFOA検出が判明していた)昨年の秋も、児童にコメを配ったのか。

「配りました」

―校長の権限で、今年収穫したコメの提供を止めることはしないのか。

「ちょっとわからない、想像がつかない。毎年継続しているものですし、あくまでも子どもたちの体験で、食育にもつながるので」

昨年の稲刈り体験について綴られた投稿。田んぼの向こう側に、ダイキン淀川製作所の工場が見える=摂津市立味生小学校ウェブサイトより

摂津市長「コメは持って帰らん方がええよね」

校長の大﨑への取材から1カ月。大﨑は「コメを児童に提供する可能性が高い」と言ったものの、PFOA汚染に関するTansaの報道や議会での追及が強まり、児童がコメを持ち帰るかは今も結論が出ていない。市長の森山は12月10日のTansaの取材に、こう答えた。

「(コメは)持って帰らん方がええよね」

ただ森山は市長として、児童にコメを持って帰らせないとも言わない。

「コメをどうするかについては教育委員会で。どうするかについてはまだちょっと私の方では」

その教育委員会は12月14日の市議会で、共産党市議の増永和起に質され、教育総務部長の小林寿弘がこう答弁した。

「提供していただく予定のお米の取り扱いおよび保護者への周知につきましては、学校と協議してまいりたい」

=つづく

(敬称略)

*2021年4月8日現在の数

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