強制不妊

補償認められた強制不妊被害者3.8%/自治体が本人・家族に連絡せず/期限は残り半分の2年半

2021年10月29日17時53分 辻麻梨子

強制不妊の被害者に、あらたな救済法で補償金320万円が支払われることが定められたが、被害者約25000人のうち、これまでに支払いが決まったのはわずか3.8%945人だ。

救済法は2019年に施行された。支払い認定は主に都道府県が行っている。Tansaが47都道府県に質問状を送って回答を得たところ、ほとんどの自治体は被害者本人や家族への「個別通知」をしていなかった。被害者の生存者数すら確認していない自治体もある。このため被害者からの申請が少なく、救済に結びついていない。

補償金の申請期限は20194月の法律施行から5年、2024年4月までだ。残された期間は半分を切っている。 

手術されたことを知らない人に行政は・・・

救済法は2019424日、被害者への「おわび」と一時金320万円の支給を盛り込み、超党派の議員連盟による議員立法で成立した。請求できるのは、被害者本人だけだ。

しかし、自分が手術をされたことさえ知らない人がいる。

例えば、重度の精神障害や知的障害がある人たちの中には、不妊手術について理解できないまま、親の同意で手術を受けた人たちがいた。旧優生保護法のもとでは、本人が嫌がる場合は「騙して手術をしてもいい」という通知が厚生省から出された。その人々は手術について知りようがない。

 手術されたことを知っていても、2019年に補償金がもらえる法律が成立したことを知らない人が多いことも考えられる。

こうした事情があるにもかかわらず、ほとんどの自治体は本人や家族に直接アクセスしていない。厚労省のホームページの下の方に補償金の支給について掲載したり、高齢者施設にポスターを貼ったりしている程度なのだ。

43県は生存人数も把握せず

行政が個別通知をしない理由は、「プライバシーの保護」だ。厚労省が「家族には一切伝えていない場合や、当時のことを思い出したくない場合も想定するように」と都道府県に通知を出しており、ほとんどの自治体がこの通知に従っている。

Tansaは全国47都道府県に対して質問状を送り、救済の対応状況を調査した。その結果、山形県、岐阜県、兵庫県、鳥取県以外の43都道府県では個別通知を行なっていなかった。

この43都道府県では、県下で手術を受けた人のうち何人が生存しているかの実態も把握していなかった。

手術実施件数上位10自治体の回答

全国で最も手術件数が多かったのは北海道だ。1956年には、強制不妊手術が1000件を突破したことを記念する雑誌まで発行するなど手術に邁進した。現在は2593人分の記録が見つかっていて、そのうち半数は個人の名前までわかっている。

しかし、北海道は個別通知をしていない。道の担当者に個別の通知をしない理由を尋ねると、「国と同じです」と繰り返した。つまりプライバシーの保護だ。

一方で、自治体の中でも個別通知を行なっている県もある。そのことを尋ねると、「そうなんですね、その辺はわからないです」というだけだった。

記念誌では遺伝性疾患や家族に犯罪歴のある人を「悲惨な例」として取り上げていた。

ほとんどが家族を介して請求

Tansaの質問に対し、個別通知を行なっていると回答したのは山形県、岐阜県、兵庫県、鳥取県だった。

鳥取県は救済法の成立直後から、平井伸治知事が決断し個別通知に向けて動き出した。個別通知であっても、プライバシーを守ることはできるという考えからだ。具体的には、鳥取県は次の手順で個別通知を行っている。

1、被害者が当時住んでいた市町村に、今も本人が住んでいるかを県が照会してもいいか、県の個人情報保護審議会に諮問する。市町村側でも県に情報を提出すべきか、同様に審議会を開いて判断する。

2、審議会で承認された場合には、県が市町村に個人情報を照会。市町村は当事者の現在の居住地や身体的・精神的な状態を確認する。

3、県と市町村の間で相談をしながら、本人や親族の状況に応じた通知方法を決める。

このような方法を使った結果、鳥取県では生存している6人の被害者全員が一時金を申請し、認定された。

ほとんどは、家族を介しての連絡になった。知的障害や精神障害が重いケースが多く、本人への連絡ができなかったからだ。

家族に説明をする際には、手術を受けた本人の事情を知っている市町村、入所先の施設や病院の職員と相談した。家族の中でも誰に話をするのがいいかを事前に話し合った。

家族と連絡が取れない場合は、県が作成した手紙を施設職員を通じて家族に渡し、家族から連絡をもらうようにした。情報を知らせる職員の範囲は最小限にとどめた。

山形県も同様の方法で通知を行なっている。方法は先行していた鳥取県や兵庫県に教えてもらったり、報道を調べたりした。

山形県も本人に伝えるのが難しい場合が多く、施設や家族を介しての通知が多かった。だが、プライバシーの保護に関して、これまで本人や家族から苦情を受けたことはない。

山形県の担当者は、「同じ家族でも通知する相手を間違えればトラブルの原因になります。そこは丁寧に、市町村、施設職員の方々と協力しながら進めています。その上で申請まで至るかどうかは、ご本人や家族の希望に添っていくことになります」と話す。

消極的な行政がほとんどの中、被害者への補償を残された2年半でどうやって進めるのか。救済法は超党派による議員立法だ。次回は、議連で事務局長を務める福島瑞穂・参議院議員へのインタビューを報じる。

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