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「開催中の中止」にまで言及した迷走の五輪組織委 パートナー企業は驚愕

2021年05月28日18時20分 渡辺周

東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会が迷走中だ。

Tansaは、「パートナー」と呼ばれるスポンサー企業に対し、組織委が2021年4月28日に説明した会議の議事録を入手した。その中で組織委幹部は、無観客開催の可能性や、大会開催中の中止もあり得ることにまで言及していた。

会議では、パートナー企業が「なぜ今頃になって最悪の事態の可能性を言い始めるのか」と組織委幹部にぶつける場面もある。

企業の担当者の中からは「五輪中止を求める世論の中では、開催直前のかき入れどきでもプロモーションができない」として、早めに五輪中止を決めるべきだという声も出てきている。

組織委「コロナ収束難しく、無観客も想定」

東京五輪には、「パートナー企業」が81社ある。ランク別の内訳は、上位から「ワールドワイドパートナー」が14社、「ゴールドパートナーが」15社、「オフィシャルパートナー」が32社、「オフィシャルサポーター」が20社だ。

Tansaが入手した電通グループの内部資料によると、企業が東京五輪のパートナーになるための契約金は、最上位ランクのワールドワイドパートナーで1社数百億円から1千億円、最下位のオフィシャルサポーターでも10億円から30億円だ。

組織委とパートナー企業は、「パートナーミーティング」と呼ばれる会議を定期的に開いている。国際オリンピック委員会(IOC)と、組織委が共有した事項をパートナー企業に伝えるのが目的だ。パートナー企業81社から、担当者が参加する。

4月28日の会議は、午後9時30分から1時間超にわたり、ビデオ電話「Teams」を使って開かれた。この日の5者協議で話し合った「観客の上限」について、パートナー企業に説明するのが主な目的だ。「5者」とは、IOC、国際パラリンピック委員会(IPC)、組織委、東京都、日本政府のことを指す。

組織委の古宮正章・副事務総長と、坂牧政彦マーケティング局長が組織委の会議室から説明し、パートナー企業の担当者たちはオンラインで参加した。古宮副事務総長は日本政策投資銀行、坂牧局長は電通出身だ。

組織委は「観客制限は50%を目指す」という方針を示しているにもかかわらず、この日の会議では突然「無観客」に言及しはじめた。

「踏み込んだことをいうと、コロナの感染拡大で一定の改善があったとしても早期に収束することは難しい。無観客も想定している。これはオフィシャルな見解ではないため、情報の扱いに注意してほしい」

パートナー企業優遇で一般客のチケットが減ったら

パートナー企業からは、続々と反発の声が上がる。

「なぜ今、無観客といい始めるのか。驚愕している。釈然としない」

「五輪が1年延長したとき組織委は、観客制限はせず『フルスタジアム』で開催するといっていた。昨年3月の時点で専門家はコロナの収束には2、3年はかかるといっていたのに、なぜ今頃最悪のシナリオが出てくるのか」

パートナー企業が反発するのは、各企業が自社のキャンペーンや顧客の接待のため座席枠を確保しているからだ。

「チケットキャンペーンで座席が当選した人に、当選を有効だと伝えてもいいのか」

「無観客になったらシニアエグゼクティブパスはどうなるのか」

不安の声を上げるパートナー企業に対し、組織委は「お客様を入れることで最大限努力することに変わりはない」と強調し、「当選は有効だ」と答えた。

一方で、こんな心配をする企業もあった。

「一般客のチケットが削減される一方で、パートナーのチケットが有効だったら、一般客に行き渡らなくなるケースが出てくる。メディアでそのことが報道される可能性があり、世論から批判されるのが心配だ」

1月に反転攻勢に出るつもりが

そもそも五輪の中止を求める世論が勢いを増していること自体、パートナー企業は神経をとがらせている。こんな意見も出た。

「組織委員会とパートナー企業で越えなければならない共通の壁は、世論だ。中止すべきだという世論を逆転させる必要がある」

これに対して組織委は「おっしゃる通りだ」としながらも、「1月から反転攻勢に出るつもりだったが、コロナに再び勢いが出てしまった」。

別のパートナー企業からは「五輪中止はもうないのか」という質問が出た。

「これまで通り五輪中止の選択肢はない。観客を制限するか、無観客を考えている。ただ、海外から選手が来日できない状況となれば中止もあり得る。最終的な判断がいつになるか分からない。最後の最後まで分からない。大会の最中であっても中止はあり得るので、今は申し上げることができない」

「コロナより五輪」の日本はバカじゃないかと思われる

パートナー企業にとっては、五輪直前の今が最もかき入れどきだ。その時期に感染拡大で五輪中止を求める世論が盛り上がっては、ビジネスを展開できない。

Tansaは、4月28日の会議に参加した企業の担当者に取材することができた。

「パートナー企業は、力を入れてオリンピックキャンペーンを準備してきた。それを最も熱を入れて展開する大会直前期にもかかわらず、その機会を失っている。今の世論の状況を踏まえると、宣伝活動をすることは逆にマイナスイメージになりかねないからだ」

その上でこの担当者は「五輪は中止するべきだ」という。

「プロモーションの最大の機会を失って損害を被り続けているパートナー企業は『いい加減にしてくれ』と声を出すべきだ」

「コロナより五輪を優先する日本を、国民は自分の国でも信じられなくなるわ、海外からも日本はバカじゃないのかと思われるわ、最悪の状況だ。五輪をやるといい続けている菅政権、それを止められない野党を含めての政治家の罪は本当に大きいと思う」

開会式が行われる予定のオリンピックスタジアム(新国立競技場)=東京都新宿区、2021年5月28日撮影

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