もし、あなたの大切な人が、効果を期待できない危険な治療で亡くなり、それが医療事故ではなく単なる「病死」として処理されたとしたら、どうしますか?ーー
【動画】治療を担当した医師へのインタビュー
舞台は東京大学病院循環器内科(小室一成教授)。そこで、2018年10月7日午後2時5分、41歳の男性が亡くなった。
心臓に病気を抱えたその男性は、担当医師の勧めで保険適用されたばかりの最先端機器(マイトラクリップ)を使う治療を受けた。しかし、この治療は途中でトラブルが起きて中止され、男性は治療から16日後に亡くなった。治療中に肺に穴が開き、これがもとで体調が急変したことが原因とみられる。医療法では、医療が原因とみられる予期しなかった死亡は、厚生労働大臣が指定した第三者機関である医療事故調査・支援センターに届け出なくてはならない。
ところが、私たちが入手した患者の死亡診断書には、その男性の死因は「病死及び自然死」と記されていた。東大病院は男性を「病死」扱いにして、届け出を行わなかったのだ。この対応には、院内からも「医療ミスではないのか」などと疑問の声が上がっている。
私たちはこの疑惑に迫るため、入手した男性のカルテを分析した。
そこには、その機器を使って治療をすることが認められない症状だったことが記載されていた。私たちの取材に応じた関係者も「普通なら治療はしてはいけないケースだ。医師なら誰でもわかる所見です。実験台に等しい」と批判する。しかし、この治療は東大病院の倫理委員会からお墨付きが出ていた。
遺族は「治療の後、うまくいかなかったから残念だったねーって息子と話しました。その時は2、3日大丈夫だったんです。でも急に悪くなって。あれ?あれ?というふうに思ったんです」と話している。
私たちは真相を探るため、治療を担当した循環器内科の金子英弘医師(先進循環器病学講座特任講師)の講演がある福岡市に向かった。金子医師は取材に「ノーコメント」を繰り返した。
東大病院はなぜ、医療事故調査・支援センターに男性の死を届け出なかったのか。私たちは東大病院の齊藤延人院長に質問状を出した。回答は「質問書に記載されている方が、当院で診療をお受けになったことがあるか否かを含めお答えはできません」だった。
関係者へのインタビューは以下の動画からご覧いただけます。
【動画】東大病院の循環器内科のトップ、小室一成教授へのインタビュー
男性が死亡した東京大学病院=2018年11月26日午後12時31分、東京都文京区本郷7丁目
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