(読むために必要な時間) 2分20秒
竹村達也は自ら失踪したーー。動燃技術部にいたOBは、そう証言した。蔵書を古書店に売っていたこと、放置したと思われていた愛車のカローラも、実は他の職場仲間とカーシェアリングしていたことを根拠に挙げた。
ただ、同じ技術部でも課が違ったため深い付き合いはなく、なぜ失踪したかまでは分からなかった。
私は竹村と同じ技術部検査課のOBの自宅を探すため、動燃関係者らを回って調べた。検査課のOBは仙台市内にいた。
そのOBは突然の訪問をいぶかったが、私が竹村の名前を挙げて失踪したことを告げると、自宅のインターフォン越しに取材に応じた。
「退職されたことは知ってますけど、失踪したことは知りません。竹村さんは私より先輩で34~35歳だったかなあ。私とはあまり親しくなかったですから。元々竹村さんは別の部署にいて検査課に来られましてね。1、2年一緒なだけでしたから」
ー警察が「北朝鮮に拉致されたかもしれない」と疑い、動燃に調べに来たという話もある。
「いや、いや、存じません。警察沙汰になったことも知りません。今初めて聞いたなあ、警察がどうのこうのって。失踪したこと自体知らないんだから」
ー退職するというのは、竹村さんから聞いたのか。
「いや、いや、同じ課だったから送別会をやったんですよ。突如としてやめたんじゃなくて、きちんと送別会をやりましたよ。辞める人の送別会は必ずやってましたから」
ー本人は何を話していたのか、送別会は居酒屋でやったのか。
「竹村さんはあまりモノをいう人ではなかったから、何を話したかは覚えていませんし、どんな店でやったかも覚えていません。でも東海村で送別会をやりましたね」
ー転職したという話が動燃のOBたちから出ている。
「いや、そんな話はなかったです」
私には不自然に思えた。普通、退職の送別会では転職先が決まっていたら本人が報告するのではないか。
一体どうなっているのだろう? 東京に戻る新幹線の中で考えている時、あることを思い出した。竹村がプルトニウム燃料部にいた時の同僚の話だ。
「動燃の人事部が期末手当の未払い分を竹村に支払おうと転職先に電話したら、『そんな人は来ていません』といわれた」
これは転職をめぐる話が、竹村の拉致疑惑のキーではないか。私は北朝鮮による拉致事件で、転職が絡むケースがないかを調べることにした。
(敬称略)
=つづく
*北朝鮮による拉致の目的とは何か、日本は核を扱う資格がある国家なのか ──。旧動燃の科学者だった竹村達也さんの失踪事件について、独自取材で迫ります。この連載「消えた核科学者」は「日刊ゲンダイ」とのコラボ企画です。「日刊ゲンダイ」にも掲載されています。
- 竹村達也さんについての情報をお待ちしています。強力なセキュリティをかける連絡方法も用意しています。プロバイダーがあなたの通信内容を政府機関に提供したり、政府機関が何らかの方法であなたの通信内容を把握したりすることは不可能になります。こちらをお読みいただき、情報をお寄せください。