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ACROの銀行通帳のコピー。「チユウガイセイヤク」の入金は臨床試験「JBCRG04 」に使うことを示す手書きのメモがある(写真の一部を加工しています)
中外製薬は、NPO法人を迂回(うかい)させて、自社の抗がん剤を試す臨床試験に資金を流し込んでいるーー。乳腺外科医の尾崎章彦(34)は、自身が指摘していた疑惑(*1)が真実であると改めて確信した。そのNPO法人先端医療研究支援機構(ACRO=アクロ)の関係者Xが2018年秋、経理資料を渡してくれたからだ。
経理資料には、中外製薬が臨床試験が始まる半年前から巨額の資金を臨床試験のためにACROに入金していたことが記されていた。
尾崎と私たちは、再びXと東京都内で会うことにした。
通帳にあったメモ書き
私たちがXと2度目に会ったのは、初めて会ってから2週間後だ。場所は前回と同じ東京都郊外のカフェにした。
私たちはパソコンに頭を寄せた。一つ一つのファイルを開けては閉じていく。膨大な量のデータだ。X自身でさえ初めて見るファイルがあった。
私たちが「これ、何?」と尋ねたのは、銀行口座の通帳のコピーだった。
前回Xが示した2006年から2008年の臨床試験の「収支明細書」では、中外製薬の入金額は以下の通りだ。
通帳の入金記録と一致するだろうか。
「2006年9月11日」は……あった、同じだ。ぴったり一致した。「2007年8月20日」も「2008年9月22日」もある。3回の入金は完全に一致した。
入金先には「チユウガイセイヤク」とある。
そしてその通帳の入金欄のところには、手書きのメモがあった。
- JBCRG04へ
「JBCRG」は、医薬品の臨床試験を担当する医師グループの名前だ。そのあとの「04」は、中外製薬の抗がん剤「ゼローダ」の臨床試験に付けられた番号である。
メモは「このカネが、ゼローダの臨床試験のために使われるカネです」という意味以外にありえない。そうXは説明した。
パソコンから顔を上げた尾崎が「これは誰が書いたのでしょう」と聞く。
Xが答えた。
「ACROの経理担当者が、出納帳を作る上で、ヒモ付きであることを忘れないようメモったのでしょう」
中外製薬は、ACROを経由させることで、資金の出どころが中外製薬だとわからないようにしていた。しかし、その資金がほかの目的で使われてしまっては困る。それでACROの担当者がメモ書きをつけたのだ。
出納帳簿
後日、さらに私たちは中外製薬の入金がヒモ付きであることの証拠を経理資料の中から見つけた。
「普通預金出納帳」。帳簿だ。
ACROが銀行口座のカネの出し入れをエクセルシートに記録していた。入金先には製薬会社の名前がずらりと並んでいた。
中外製薬が入金した資金の用途を示す「分野」の欄には、やはり、「JBCRG04」の文字があった。入金日と金額も、収支明細表、銀行口座の通帳と一致している。
これで三つの経理資料から、中外製薬の資金が臨床試験にヒモ付いていることが裏付けられた。
それにしても、ACROとはいったいどんな組織なのか。
私たちは、X以外の関係者にもあたることにした。
(敬称略)
=つづく
【脚注】
*1 Ozaki, Akihiko, 2017, “Conflict of Interest and the CREATE-X Trial in the New England Journal of Medicine,” Science and Engineering Ethics, (Retrieved December 6, 2019).
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