不起訴になれば削除するのか?
警察庁はいま、120万件ものDNA(デオキシリボ核酸)を「被疑者DNA」として採取し、データベース化している。ワセダクロニクルが情報公開請求で警察庁の文書を入手し、判明した。国民の100人に1人にあたる数だ。東京では57人に1人になる。
採取の対象は、内野翔大さん(仮名、20代)のケースのように、立ち入り禁止の場所での釣りなど「微罪」にまで広がる。そして、いったんデータベースに登録されてしまうと、不起訴になっても削除してもらえるかどうか分からない。
ワセダクロニクルは警察庁広報室長に2019年8月14日、編集長名で質問書を送った。主な質問内容は以下の4項目だ。
(1) 警察庁が私たちに開示した「被疑者DNA型記録登録件数(累計、府県別・罪名別)によると、「刑法犯」、「特別法犯」中に「その他」の項目があるが、具体的に何の罪名が含まれているか。
(2) データベースに登録されているDNAは全て「犯罪被疑者」のDNAか。
(3) データベースに登録した後、当該人物が不起訴になった場合、DNAは削除されるか。
(4) 不起訴になってもDNAがデータベースから削除されない場合、削除されない理由は何か。
「関係部署が準備中」で、もう1ヶ月
私たちは、質問書の回答期限を2019年8月19日正午とした。だが回答はなかった。当初警察庁広報室は「10日ほどで回答する」といっていた。しかし期限から1ヶ月を過ぎた9月19日午後6時現在、回答は届いていない。
私たちは警察庁広報室に対して、8月19日、8月28日、9月2日、9月19日の計4回、回答を催促をした。そのうち8月19日と9月2日はファクスで、8月19日、8月28日、9月19日は電話で催促している。
なぜ回答がないのか。警察庁広報室に電話した。電話に出た広報担当者は以下のように話した。
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「担当は鑑識課。回答にはまだ時間がかかる」(8月19日)。
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「関係部署が準備中。8月中(にワセクロが記事を発信予定)というのは関係部署も承知している。出張が続いていたりしていた。対応部署は鑑識課だけではない。刑事局は広い」(8月28日)。
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「回答の準備はしている。鑑識の部署を中心に対応している」(9月19日)。
私たちは2019年9月19日、質問書に関して警察庁がどのような協議をしているか、情報公開法に基づいて開示請求した。
開示された行政文書は、シリーズ「監視社会ニッポン」の後の回で報じる予定だ。
国会議員への回答も核心避ける
「被疑者DNA」のデータベースについては、衆院議員の塩川鉄也事務所(共産党)も2019年5月に警察庁に質問状を出している。
質問状では、DNAのデータベースからの削除を国家公安委員会の規則が「保管の必要がなくなったとき」と定めていることについて、具体的にどのような場合かなどを尋ねた。
警察庁は、犯罪鑑識官名で、以下のように回答した。
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「被疑者DNA型記録を保管する必要がなくなったとき」に該当するか否かについては、個別具体の事案に即して判断する必要があり、一概にお答えすることは困難であるが、例えば、保管されている被疑者DNA型記録の重複が確認された場合等には「被疑者DNA型記録を保管する必要がなくなったとき」に該当するものとして、当該被疑者DNA型記録を抹消することとしている。
つまり、DNAを同じ人物から複数回採った場合は重なるので削除し、登録は一つだけにする、ということだ。そんなこと当たり前ではないか、というような内容の回答だ。
私たちが知りたいことは、不起訴になった場合や冤罪だった場合にどうするか、ということだ。それについて、警察庁はまったく答えていないのだ。
【グラフ】警察庁の文書では、犯罪容疑を「刑法犯」と地方条例などの「特別法規」に分類。さらに刑法犯の中でも「殺人」や「放火」など六つの罪状を「重要犯罪」に位置付けている
=つづく
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