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保育園や学校での新型コロナ発生が問題となっています。出席停止や休校措置などが行われていますが、自治体や学校ごとで対応が違うのはなぜか、という意見があります。
しかし、園児や生徒へのパンデミック時の対応について、残念ながら科学的エビデンスは世界的にもまだ不十分です。
もちろん単純な方法は、学校などでの集団生活を一切やめて、自宅に子どもたちを閉じ込めておくことです。実際、世界では15億人の子どもたちが一時的にせよ、「ステイ・ホーム」の措置を受けたと言われています。
ただし、このようなやり方では感染は防げても、十分な教育や社会学習の機会を設けられません。低所得の家庭の子どもに給食を届けられなかったり、児童虐待のリスクを増やしたりという問題もあります。
結局、感染リスクと学校などを再開するメリットを天秤にかけながら、諸外国でも試行錯誤しながらの対策が進められています。米科学誌サイエンス(Science)のオンライン版に「School openings across globe suggest ways to keep coronavirus at bay, despite outbreaks」のタイトルで7月7日に掲載された記事をもとに、海外での議論をご紹介しましょう。
小学生以下は周囲にあまり伝染させない
いくつかの研究によれば、幸いなことに18歳未満は新型コロナ感染のリスクは高くありません。大人の3分の1から半分程度で、年齢が低いほど感染しにくくなり、特に乳幼児でのリスクは最も低いそうです。
小学生以下だと周囲に伝染させる可能性もそれほどありません。小さい児童であれば、クラスメートからよりも家庭内での感染が原因になることが多いと考えられ始めています。ただし、1回あたりの感染リスクが低くても接触の程度が多いと相殺されて、大人と同じように病気を広げる可能性が増してきます。
高校生くらいになると軽症でも、周囲に感染を広げる可能性が上昇し、イスラエルやニュージーランドの高校でアウトブレイクがいくつか報告されています。
学校のソーシャル・ディスタンスは?
海外の学校でも、休憩時間に指定された空間だけで1人遊びにするとか、友達同士で話をさせない、通学時にクラスメートに近づかないなどの指示を出しているところがあります。
このようなソーシャル・ディスタンスは、子どもでも感染防止に役立つのは確かでしょうが、精神発達面への悪影響は無視できません。そのためイギリスでは、可能な限り早く子どもたちの生活を普通の状態に戻すべきだと、小児科医の団体から意見書が提出されています。
一方、教育現場でのリスクを減らすため、交流の範囲を少人数に限定する試みが始まっています。オランダではクラスの人数を半分にし、デンマークでは小さなグループの仲間同士だけで遊ばせています。フィンランドではクラスの相互交流をやめています。
カナダでは6人のグループ内だけでは自由に交流し、他のグループとは1メートル、先生とは2メートル距離を空ける方法にしたそうです。フランスでは5歳以下のソーシャル・ディスタンスは廃止、それより大きい子どもは屋内では1メートル以上の間隔、屋外ではクラスの友達と自由に遊んで良いとしています。オランダでは17歳未満では距離を気にしない方針としたそうです。
広い場所で新鮮な空気を吸えるようにと、墓地や教会を使って授業をするという工夫をしている国もあります。
子どもにマスクが供給できない国も
顔を触らず鼻も出さずに何時間もマスクを着用し続けるのは、子どもにとっては非現実的です。それでも、マスクをつけていれば、唾などの飛沫を周囲に撒き散らす量をできるだけ減らす意味合いはあると考えられています。
イスラエルでは学校の建物が狭く、物理的に距離を取るのが無理なので、7歳以上ではマスクが奨励されています。アジアの国々ではマスクが元々取り入れられていたので馴染みやすく、たとえば中国では基本マスク着用で、昼食時はマスクを外して仕切りの中で食べています。
ドイツでは距離を空けた着席時はマスクを外してよく、廊下やトイレでは着用としています。オーストリアは学校での伝染がなかったためマスクはやめにされました。カナダやデンマーク、イギリスは生徒や教員のマスク着用は必須にはしていないそうです。
途上国ではマスク供給が難しい場合もあり、ベニンでは学校でのマスク着用が義務化されていますが、お金がない家ではマスクなしでも可とされています。ガーナではマスクを持っていれば着用という程度、南アフリカは生徒に無料マスクの配布を始めています。
生徒に感染者が出たらどうする?
学校で生徒に感染者が出た場合、定まった対応策は残念ながらありません。無症状の感染者の広がり具合のデータもはっきりせず、閉鎖の範囲を感染者の出たクラスだけにするか、学校全体にするか、国によって対応は様々です。
ドイツでは、該当するクラスと先生だけ2週間の自宅隔離とし、他のクラスは継続させます。カナダも同じ方針です。台湾では感染者1人だけなら学校は継続、2人目からは閉鎖する予定としています。イスラエルでは1人でも出たら休校とし、接触者は積極的に検査と隔離という方針です。
無症状の子どもも含め、積極的に定期的な検査を学校現場に取り入れる試みもあります。
イギリスでは少なくとも半年間、ドイツでは1年間、PCRや抗体検査を子どもたちに定期的に実施し、ウイルスの伝染パターンや流行状況を調査する研究が始められました。この結果が出れば、学校での広がり方を具体的に確認し、もっと有効な対策が立てられるだろうと期待されています。
学校は市中感染の原因になる?
子どもたちは滅多に重症にはならないので、専門家が懸念しているのは生徒自身よりも、むしろ教師や家族、その他市中の感染の原因に学校が関係することです。
教員が学校内で感染したという報告は世界的にもあまりありませんが、積極的な封じ込め策を行わないことで有名なスウェーデンでは、何人かの教師が死亡したという報道があります。
ヨーロッパ諸国のこれまでのデータでは、学校から市中感染が広がるリスクは少ないと考えられています。地域の感染率が低ければ、注意しながら学校を開けていても、それほど問題になりません。実際、デンマークやオランダなどでも、学校を再開して市中感染が悪化したというデータは出ていないようです。
秋の学校再開に足踏みの国も
世界の多くの国で3月から夏期休暇まで学校閉鎖が続けられ、秋からの再開が予定されています。途上国ではクラスの人数を減らしたり、マスクを配ったりする余裕がないため、再開に足踏みしているバングラデシュやフィリピンのような国もあります。
アメリカでは遠隔学習と少人数クラスを組み合わせた混合方式での再開が検討されています。このような方法の有効性は一概には言えません。日本を含め、それぞれの国や地域の事情、流行状況が異なるため、データ収集と試行錯誤、情報公開を繰り返しながら、子どもたちのためにより良い方法を見つけなければならないでしょう。
- 谷本哲也(たにもと・てつや)
1972年、石川県生まれ、鳥取県育ち。鳥取県立米子東高等学校卒。内科医。1997年、九州大学医学部卒。ナビタスクリニック川崎、ときわ会常磐病院、社会福祉法人尚徳福祉会にて診療。霞クリニック・株式会社エムネスを通じて遠隔診療にも携わる。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所に所属し、海外の医学専門誌への論文発表にも取り組んでいる。ワセダクロニクルの「製薬マネーと医師」プロジェクトにも参加。著書に、「知ってはいけない薬のカラクリ」(小学館)、「生涯論文!忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり」(金芳堂)、「エキスパートが疑問に答えるワクチン診療入門」(金芳堂)がある。