700人以上の市民が国軍に殺されているミャンマー。そのミャンマー国軍が2億円超の利益を得るプロジェクトに、国際協力銀行(JBIC)が50億円を融資、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が56億円を出資している。JBICは日本政府が全額出資している銀行であり、JOINはインフラ輸出を進めるため政府がつくった官民ファンドだ。
プロジェクトは、国軍が所有する軍事博物館の跡地に、ホテルや商業施設をつくるというものだ。
総事業費は380億円。日本の民間企業からは、ホテルオークラや建設大手のフジタが参加する。みずほ銀行、三井住友銀行は、このプロジェクトを後押しする融資団にJBICと共に加わっている。
軍のクーデター以降、国際的な非難が高まっているが、日本政府の動きは鈍く、このプロジェクトから手を引かない。
背景には、日本の政財界が一体となってミャンマーにビジネスチャンスを見出している事情がある。アジアでのビジネスで中国に押される中、日本はミャンマーを「最後のフロンティア」として位置付けているのだ。
ミャンマーでのビジネスを推し進める「一般社団法人 日本ミャンマー協会」には、最高顧問の麻生太郎財務大臣ら与野党の政治家たちが幹部として名前を連ねる。
軍事博物館の跡地に
ミャンマーの最大都市ヤンゴンに、軍事博物館の跡地がある。国軍の所有で、広さは1万6000㎡。東京ドームの3倍以上だ。軍事博物館には、戦闘機や戦車、建国の父といわれるアウンサン将軍が愛用した日本刀など国軍の歴史を物語るものが展示されていた。
軍事博物館は移転し、その跡地で2018年、ホテルやオフィス、商業施設の建設が始まった。開業予定は2021年だ。
このプロジェクトを運営しているのは、現地法人の「Y Complex」社だ。日本側が8割、ミャンマー側が2割を出資している。事業は社の名前を取って「Y Complex」と呼ばれている。
日本側は官民ファンドのJOIN、建設会社のフジタ、不動産会社の東京建物がY Complexに出資。これらの企業団に、JBIC、みずほ銀行、三井住友銀行が総額150億円の融資をして、プロジェクトを支援する。
ミャンマー側は「Yangon Technical & Trading Co,LTD」(YTT社)が出資している。
JBICは、2018年12月18日のプレスリリースで次のように記し、日本の官民一体となった取り組みをアピールしている。
「ミャンマーへの日本企業の進出は継続的に増加しており、最大の都市であるヤンゴン市への日本企業の進出意欲は引き続き旺盛であることが見込まれます」
「本融資は、東京建物及びフジタの海外事業を支援すると共に、日本企業のミャンマー進出を支援することで、日本の産業の国際競争力の維持・向上に貢献するものです」
Y Complex社を中心としたカネの流れ (C)Tansa
陸軍司令官室と兵站総局が用地貸し出し
問題は、プロジェクトの用地を所有する国軍に賃貸料が入ることだ。
ここに、跡地についての賃貸契約書がある。プロジェクトの環境アセスメント報告書に付随する書類として、公開されている。日付は2013年10月15日、契約者の名義は以下の通りだ。
貸し出す側
「陸軍司令官室」「兵站総局」
借りる側
「Yangon Technical & Trading Co,LTD」
Yangon Technical & Trading Co,LTD(YTT社)は、日本企業とプロジェクトのために作ったY Complex社の一員だ。
賃貸料金は年間で約2億3000万円。公開されている賃貸契約書では料金の欄が伏せられているものの、ミャンマーのメディア「Myanmar NOW」が、実名のYTT社幹部の話として金額を伝えている。
この問題はミャンマーのNGO 「Justice For Myanmar」が追い続けていて、日本でもNGO「メコン・ウォッチ」など32団体が、2021年3月4日、麻生太郎財務大臣やJBICの前田匡史総裁、JOINの武貞達彦社長らに要請書を出した。
「日本の公的資金と国軍ビジネスとの関連を早急に調査し、クーデターを起こした国軍の資金源を断つよう求めます」
「陸軍司令官室」「兵站総局」の名前が記載されている賃貸契約書
加藤官房長官の「ごまかし」
しかし、政府もJBICもNGOの要請に応じていない。
JBICはTansaの質問に対して次のように回答した。
「JBIC としては、日本の事業者の今後の対応方針について確認を行いながら、その意向を踏まえるとともに、今後の事態の推移を注視しつつ、日本政府とも必要に応じ連携しながら、適切に対応していきたいと考えております」
加藤勝信官房長官は、2021年3月24日の記者会見でロイター通信の記者に、プロジェクトで賃料が国軍側に入ることを問われて答えた。
「(用地は)ミャンマー企業が国防省から借り、現地事業会社に提供されている。JBICはミャンマー国軍と直接の取引関係はない」
だが、加藤官房長官がいう「ミャンマー企業」とは、YTT社のことだ。日本企業と共に、プロジェクトのための現地法人Y Complex社を構成している。プロジェクトにJBICが融資している以上、JBICと国軍が直接やりとりしているかに論点を合わせるのは、ごまかしだ。
「日本ミャンマー協会」最高顧問に麻生財務大臣、理事に加藤官房長官
日本政府の動きが鈍いことに、日本在住のミャンマー人たちは怒りを募らせる。
4月14日には約80人が、東京・平河町にある日本ミャンマー協会の前に集まった。2時間にわたって「国軍を支援するな! 」「ミャンマーの若者を見殺しにするな! 」と怒りの声を上げた。
デモはなぜ、日本ミャンマー協会の前で行われたのか。
デモを主導したティリ・ティサーさん(29)に聞いた。ティサーさんは日本に留学した後、日本の生命保険会社で働いている。政治には興味がなかったが、中学時代からの友人3人が国軍に拘束され、「他人事ではない」と思い活動している。
「日本ミャンマー協会には、日本の偉い政治家や日本の大企業が入っていて、ミャンマーへの影響力が大きい。国軍との付き合いも深いです。市民を虐殺する犯罪者集団の国軍ではなく、市民の味方になってほしいのです」
日本ミャンマー協会のウェブサイトを調べると、ティサーさんのいう通り、大物の政治家や財界人が幹部に名を連ね、大企業が会員になっていた。
JBICを監督する立場の麻生太郎財務大臣は、協会の最高顧問。加藤勝信官房長官は理事だ。
プロジェクトの中心であるフジタ、JBICと共にプロジェクトに融資しているみずほ銀行、三井住友銀行も日本ミャンマー協会の会員だった。
ミャンマー国軍に対する影響力があるにもかかわらず、虐殺を止めるために動こうとしない日本ミャンマー協会。これまでどのような活動をしてきたのか。次回以降、報じていく。
一般社団法人日本ミャンマー協会ウェブサイトより
=つづく
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