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認知症の高齢者や、視力が弱って字の読めない高齢者にまで、新聞を押し売りするーー。そんな状況を日本新聞協会はどう考えているのだろう。
ワセダクロニクルは昨年暮れ、新聞社103社が加盟する新聞協会の山口寿一会長(読売新聞代表取締役社長・販売担当)に質問状を出した。年が明けて1月18日、その回答があった。
回答で明らかになったのは、新聞協会は高齢者への押し売りについて自らは調べていないということだった。高齢者への押し売りを販売店と消費者との「トラブル」と表現し、高齢者の側にも責任があるかのようにごまかした。
「販売現場の具体的な事例は調査していない」
ワセダクロニクルは2020年12月21日、3項目の質問を送っていた。日本新聞協会は西野文章専務理事・事務局長の名前で回答してきた。
一つ目の質問は「認知症の高齢者らに対して悪質な新聞販売が行われていることを把握しているか」。
これに対する回答。
「国民生活センターの公表資料で、高齢者との消費者トラブルがあることは把握していますが、新聞協会として販売現場の具体的な事例は調査していません」
国民生活センターの公表資料とは報道発表資料のことだ。タイトルは「2019年度にみる60歳以上の消費者トラブル」。そこには、高齢者が様々な商品を購入した際の相談がまとめられている。新聞については認知症の高齢者に関する次のような事例が紹介されていた。
「母は以前A社の新聞を定期購読していたが、契約終了後から今月までの5年間はB社の新聞を定期購読していた。ほとんど読んでいない状態だったのでやっと新聞契約が終わることにほっとしていたら、昨日A社の販売店から手紙が届き、来月から3年間朝刊を配達すると書いてあった。母に確認すると全く覚えておらず、A社の販売店に問い合わせると5年前に母と来月から3年間の契約をしている、サインされた契約書もあると言われ、後刻契約書のコピーを持ってきた。確かに母の字でサインもあったが、高齢で最近は認知症状も出てきたこともあり、本人も解約を希望しているので、契約をやめたい」
(2019年12月受付 相談者:60歳代 女性、契約当事者:80歳代 女性)
しかし新聞協会はこうした事例を自らは調査していない。「消費者とのトラブル」として片付けてしまっている。
だがそれはごまかしだ。「トラブル」は当事者間の「もめごと」であり、加害者と被害者は明確に分かれていない。一方でいま問題になっているのは、認知症の高齢者らが押し売りの「被害者」になっている事例だ。
「法律を遵守しているか」に答えず
二つ目の質問では「悪質な新聞販売に対する具体的な対策」を尋ねた。
「新聞協会販売委員会(59社販売責任者で構成)で、国民生活センター公表資料を報告し、全国の販売現場に対して内容を共有し、高齢者を中心に消費者とのトラブルにはさらに注意するように指示しています」
要するに、トラブルには気を付けるよう販売現場に指示しているだけで、それ以上の具体的な行動はとっていないということだ。
三つ目は「特定商取引法など新聞販売に関係する法律を順守しているか」。
「新聞協会は特定商取引法はじめ販売ルールを順守徹底するよう、全国の販売現場に対して呼びかけており、その成果が相談件数の減少として表れていると考えています」
「法律を順守しているか」を質問しているのにそれには答えず、「順守徹底するよう呼びかけている」といっているだけだ。
「相談件数の減少」とは、2019年度に全国の消費生活センターに寄せられた新聞の訪問販売に関する相談件数は6267件で、2018年度に比べ1086件、2013年度に比べて3906件減ったことを指している。
だが直近のデータで6000件を超える相談が寄せられていること自体を問題視していない。その中には認知症や低所得の高齢者らが狙われている事例が含まれていることに対しては、新聞協会はまったく見解を示さなかった。
=つづく
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