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新型コロナ感染者数の拡大を受け、2021年1月7日に首都圏4都県を対象に緊急事態宣言が再発出されました。飲食店の営業時間短縮の要請などが行われていますが、そう簡単に感染をコントロールできないことは、誰の目にも明らかになっています。首都圏にとどまらず全国的な広がりもあり、また欧米でもいまだに猛威をふるっています。
そこで注目されるのがワクチン接種です。新型コロナに対するワクチン開発は予想以上に順調に進み、欧米や中国を中心に複数の種類のワクチン接種が始まっています。ワクチンの有効性はおおむね9割程度はあると報告されています。これだけ有効性のあるワクチンを日本でも数千万人が接種すれば、ウイルスの流行はかなり抑えられるでしょう。日本では、まず医療従事者を対象に2月下旬ごろから接種が始まる見込みです。
しかし、そこで心配されているのがワクチンの安全性です。ワクチン開発にかかる時間はこれまで、5年、10年かかるのが当たり前でしたが、今回は1年未満という驚異的なスピードです。
開発に成功したワクチンは、どの会社のものも大きな問題は起こっていないとされています。それでも、多くの人に接種して本当に大丈夫なのか、という声は絶えません。
今回紹介するのは、ワクチンの安全性について解説したニューイングランド医学誌の総説論文です(Maintaining Safety with SARS-CoV-2 Vaccines:2020年12月30日オンライン掲載)。アメリカのブリガムアンドウィメンズ病院とヴァンダービルト大学医療センターの専門家がまとめました。他の論文情報も含めて考察してみましょう。
40度以上の高熱も
欧米や中国を中心に開発が進んだ新型コロナのワクチンですが、安全性で問題となる副反応はこれまでの他のワクチンと大きくは変わりません。わざと異物を体に入れて炎症反応を起こして免疫力をつける、という大枠の仕組みは同じだからです。
ワクチンを接種すれば、まず注射の針を刺した場所(通常は上腕)で、痛みや発赤、腫れがよく起こります。ひどい人は、肘あたりまで広範囲に腫れることもあります。
接種後24〜48時間には、発熱や倦怠感、筋肉痛、関節痛といった反応が出てきます。反応が強い人だと40度以上の高熱が出て、インフルエンザにかかったような症状になり、寝込まなければならないこともあります。このため、解熱鎮痛剤を使ったり、接種した後は無理をせず仕事を休んだり、といった対策が必要になることもあります。
ただし、これらの副反応は、どの会社の製品でもおおむね許容範囲内だとされています。一時的に高熱が出たとしても次第におさまるので、しばらく我慢すれば大丈夫ということです。しかし今後は、持病を持っている方、高齢者の接種も増えてきます。これらのよくある副反応であっても注意が必要なケース出てくるかもしれません。
重篤なアレルギー症状は10万人に1人
何万人に1人という非常にまれな副反応も、ワクチンでは問題になることがあります。なぜなら「健康な人が、病気になるのを予防するために接種する」というワクチンの宿命があるからです。
新型コロナのワクチンで話題になっているのは、アナフィラキシーと呼ばれる強いアレルギー反応です。アナフィラキシーは、じんましんや吐き気、呼吸困難、頻脈、血圧低下などから、ひどい場合はショック状態になってしまうもので、最悪の場合、死亡につながります。
2020年12月よりアメリカやイギリスで、ファイザー社・ビオンテック社のメッセンジャーRNAワクチンが緊急承認されました。多くの人への接種が始まり、すでに何人かアナフィラキシーの発生が報告されています。従来のワクチンでは100万人に1人程度の発生が相場でしたが、このワクチンでは10万人に1人。リスクは10倍です。モデルナ社のメッセンジャーRNAワクチンでも同様に発生が報告されています。
アレルギー体質の人で発生しやすいと考えられているため、他の薬やワクチン、食べ物でアナフィラキシーが起こった経験がある方は、新型コロナのワクチンは接種しないようイギリスでは勧告が出されました。
しかし、その後のデータの見直しが進み、一般的なアレルギー体質であれば接種は可能であると改訂が加えられました。イギリスと同様にアメリカ疾病予防管理センター(CDC)も、一般的なアレルギー体質であれば問題ないとの見方を示しています。
ただし、それでも注意が必要な方がまれにいます。特に、ワクチンの成分である、ポリエチレングリコール(PEG)やその派生物質であるポリソルベートなどの成分がアレルギーの原因として問題になるようです。メッセンジャーRNAワクチンは、遺伝子を運ぶために脂分の微小な粒子で覆い包むという特殊な技術を使用しており、それに用いられる成分です。別のワクチンでアストラゼネカ社製のものは、アデノウイルスベクターという全く別の技術を使っていますが、似た成分を使用しているので、こちらでもアレルギー反応が出るリスクは当然あります。
アナフィラキシーは、ワクチンを接種した後、症状が出るのが早ければ早いほど重症になりやすいと言われています。ただし、すぐにエピネフリンというホルモンを投与するなど、適切に対処すれば治療が可能な病態です。過度に心配する必要はありませんが、接種した後15〜30分以内に変わった症状を感じた場合は、すぐに医療従事者に伝えてください。
ワクチンの接種記録は長期保管を
私の考えになりますが注意していただきたいのは、一口に新型コロナのワクチンと言っても、いろいろな種類があることです。一般の方にも馴染みのあるインフルエンザワクチンも同様に複数の会社の製品がありますが、どの会社のものか気にする人はほとんどいません。実は微妙な成分の違いがありますが、長年用いられて、どれもほとんど同じという共通理解があるからです。
しかし、新型コロナの場合は異なります。メッセンジャーRNAという遺伝子や、アデノウイルスベクターといった、これまでのワクチンにない全く新しい技術が用いた製品が出てきているからです。
中国製のワクチンでは、従来の方法であるタンパク質や不活性化ウイルスを用いた製品も開発されていますが、日本に入ってくるのは欧米で開発された新技術を用いたワクチンです。今回ご紹介した以外にも、半年から年単位経ってから長期的な副反応が出てくることがないとも限りません。
そのため実際に接種を受ける場合は、いつどこで、どの会社のワクチンを使ったのかの記録を、長期的に保管しておくことが重要です。ワクチン接種後に体調変化があり医療機関に受診する際には、大切な参考情報になります。また、今のところ数週間の間隔を開けた2回の接種が予想されていますが、将来的に3回目以降の接種が必要になるかもしれませんし、最初とは別の会社の製品を接種するというケースも出てくるかもしれません。
そのためワクチン接種の記録について、大人でも母子手帳のように携帯したり、お薬手帳やスマートフォン、電子カルテなどの医療情報との連携も視野に入れたりする工夫があった方がいいと思います。少なくとも医療機関にかかる場合、近い将来には新型コロナワクチンの接種歴の詳細を必ず自己申告して頂くことが必要になると思います。
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- 谷本哲也(たにもと・てつや)
1972年、石川県生まれ、鳥取県育ち。鳥取県立米子東高等学校卒。内科医。1997年、九州大学医学部卒。ナビタスクリニック川崎、ときわ会常磐病院、社会福祉法人尚徳福祉会にて診療。霞クリニック・株式会社エムネスを通じて遠隔診療にも携わる。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所に所属し、海外の医学専門誌への論文発表にも取り組んでいる。ワセダクロニクルの「製薬マネーと医師」プロジェクトにも参加。著書に、「知ってはいけない薬のカラクリ」(小学館)、「生涯論文!忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり」(金芳堂)、「エキスパートが疑問に答えるワクチン診療入門」(金芳堂)がある。
- 谷本哲也(たにもと・てつや)
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