高齢者狙う新聞販売

日本新聞協会の抵抗(2)

2020年12月29日18時30分 渡辺周

(左から)毎日新聞、読売新聞、朝日新聞の各本社ビル

(読むために必要な時間) 5分40秒

高齢者への悪質な新聞勧誘が横行する状況に、弁護士や行政は対策を模索してきた。

日本弁護士連合会は2015年5月7日、新聞などの訪問・電話による勧誘についての規制強化を政府に求めた。具体的には、「訪問販売お断り」のステッカーを貼っている場合など拒否の意思を明らかにしている相手には訪問販売を禁じるよう「強く求める」と要請した。

政府も2015年、規制強化に向けて動き出す。法律を改正し、拒否の意思を示す相手への訪問販売の禁止ができないか検討を始めた。

しかし、新聞社103社が加盟する一般社団法人日本新聞協会は、この動きに強く反対した。

消費者庁課長「認知症高齢者を食い物にしている」

日弁連が政府に意見書を出した同じ年の2015年3月、麻生太郎副総理から諮問を受けた消費者委員会の主催で、「特定商取引法」の改正を話し合う第1回の専門調査会が開かれた。消費者委員会は内閣府が消費者行政での意見をもらうために設置した機関だ。

この法律は1976年に訪問販売での被害を防ぐために作られた。その後、被害の多様化に伴い規制を強化する改正を何度も繰り返してきた。2015年の調査会では規制強化を話し合うのが大きな目的だった。

調査会のポイントは、拒否の意思を示す相手への訪問販売について、法律を改正して禁止するかどうかだ。これまでは、勧誘を受ける意思があるか確かめる努力義務があるだけだった。

訪問販売で消費生活センターに寄せられる苦情が最も多い業種は、新聞勧誘だ。2010年度から2014年度で5万件超も報告されていた。

消費者庁取引対策課の山田正人課長は、認知症の高齢者が被害に遭うケースが多いことを指摘しこう述べた。

「認知症高齢者には、ものすごく訪問販売が、言い方は悪いですけれども、食い物にしているというか、そういうふうな状況が見てとれると思います」

【消費生活センターに寄せられた訪問販売の商品別苦情件数】

新聞協会の理事「断られてもとっていただく」

2015年6月10日には、第6回の専門調査会が開かれた。訪問販売の規制について新聞業界の意見を聞こうと、日本新聞協会の幹部ら3人が呼ばれた。新聞協会から出席したのは、以下の3人だ。

理事・山口寿一氏 (読売新聞グループ本社代表取締役経営主幹)

販売委員会委員長・寺島則夫氏(毎日新聞東京本社販売局長)

販売委員会副委員長・練生川雅志氏(河北新報社販売局長)

新聞協会側は山口寿一理事が、新聞の存在意義について次のように説明した。山口理事は読売新聞グループ本社の代表取締役で、かつては社会部記者として検察の取材などを担当してきた。

「新聞は、ニュースや、国民が必要とする情報を毎日伝え、多様な意見・論評を広く提供することで民主主義社会の維持・発展に寄与してきた」

「新聞はいつの時代も消費者の立場に立って、消費者問題を積極的に報道し、警鐘を鳴らしてきた」

「新聞販売所は地域コミュニティーの一員として高齢者・独居世帯の見守りや防犯・防災活動などで貢献している」

「全国の新聞販売所には、34万4513人の従業員がいる。その81.1%は副業であって、地域の消費者・生活者でもある」

山口理事はそうした「新聞の役割」論を踏まえ、「強引な勧誘」問題について答えた。

「新聞の勧誘の現場では、様々な接触のやり方があって、断られたけれども、とっていただくということも現実には多々あるのですね。それは、強引なセールスをしてということではないと思います」

「それが必ず強引だという前提に立ってしまうと、一旦断られたら、もう二度ととらないというこ とになるのでしょうけれども、そうではなくて、とっていただくというところまでこぎ着けること も多々あるのが新聞という商品の現実なので、事前の規制というものが強化されるのは、過剰な規 制になっていくのではないか。新聞販売所の活力を必要以上に奪うことになるのではないかという ことを非常に懸念しているところです」

山口理事はその上で、契約を拒否する相手への訪問販売を法律で禁止することに「強く反対する」と表明したのだ。

「断っても意思を尊重してもらえないのですか?」

山口理事の説明に、この日の調査会に出席していた消費者委員会の石戸谷豊委員長代理は疑問を抱く。石戸谷代理は弁護士でもある。

「すみません、今の話では、(勧誘を受けた側が)断ってもその意思を尊重していただけないわけですか?そういうふうに聞こえるのですが」

山口理事が答える。

「半年後にまた来てくださいといわれて、アポはないけれども、再び訪問する。その結果、そこで契約に結びつくということは多々あるわけです」

「明確な拒否があれば、それはまた違うと思います。そうではない、チャンスがあるかなという時には再びお話をしに行くということはあり得るということなのです」

出席者が一連の説明に失笑した。山口理事はそれに強く反発した。

「いろいろと笑われていますけれども、当方としては真面目な商品を地道にやっているということは繰り返し申し上げているので、ぜひ笑わないで聞いていただきたいと思います」

結局、拒否する相手への訪問販売の禁止を法律に盛り込むべきだという結論は、この調査会では得られなかった。

それから5年。状況は好転せず、拒否する相手への訪問販売は法律で禁止されていないままだ。

高齢者への押し売り対策について、新聞協会の方針は変わったのだろうか。2020年12月29日午後6時現在、新聞協会からの回答は届いていない。

=つづく

*役職は全て当時

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