消えた核科学者

及び腰の公開捜査(5)

2020年04月13日11時32分 渡辺周

(読むために必要な時間) 1分50秒

動燃通りから望むJR東海駅。この日は雪が降っていた=2020年3月29日午後1時1分、茨城県東海村船場

1972年に失踪した旧動燃の核科学者、竹村達也。その名前を私は2017年6月、警察庁のホームページで見つけた。

大阪府警の〈拉致の可能性を排除できない事案に係る方々〉として、46人がいた。竹村はその中の一人だった。

竹村は大阪出身だ。失踪時に実家の家族が届け出たことから大阪府警の管轄になっているのだ。

氏名 竹村達也(たけむら たつや)

年齢 36歳(行方不明当時)

住所 茨城県那珂郡

職業 公務員

身体特徴等 身長165センチメートル 体重55キログラム

 

昭和47年(1972年)3月1日、茨城県下の勤務先を退職した後、行方不明となっています

警察のリストに竹村の名前があることを知らせるため、私はすぐに竹村の部下だった科学者に会った。

東京都内の焼き鳥屋で席に着くや、彼は「ほら、やっぱりね」といった。

「あの時、刑事さんは竹村さんのことを『北に持っていかれたな』っていったんだから。今でもはっきり覚えているよ」

彼はいつもより声が大きかった。隣の客と肩があたるような狭い店内だったので、私はハラハラした。

「それにしても」と、私は科学者に尋ねた。

「なぜ、住所が『茨城県那珂郡』までで、『東海村』と詳しい住所を書いてないんでしょう? なぜ職業を『動燃職員』とせず、『公務員』とかしか書かないんでしょう?」

科学者は今度は声を落とした。

「当時はアメリカとソ連だけではなく、各国が競争で核兵器の核開発をしていた時期だ。そんな時に、政府の管理下にある動燃で、プルトニウムの製造係長をやっていた人が北朝鮮に拉致されたかもしれないとしたら、大変なことだ。動燃と結びついてしまうから『東海村』とは書けないし、ましてや職業欄に『核科学者』なんて書けるわけないだろう」

安倍政権は拉致問題の解決を目指している。そんなときに、核科学者が拉致された可能性があるとなったら世間は騒然とする。二つの事情が重なって、中途半端な表現になったのではないか。私はそう考えた。

警察がホームページに情報をアップした際、国家公安委員長の古屋圭司は国家公安委員会でこう語っている。

「いろいろな反響もあると思われるので、このような一連の取組のなかで今回発表に至っているということを、改めて御認識いただきたいと思う」

(敬称略)

=つづく

*北朝鮮による拉致の目的とは何か、日本は核を扱う資格がある国家なのか ──。旧動燃の科学者だった竹村達也さんの失踪事件について、独自取材で迫ります。この連載「消えた核科学者」は「日刊ゲンダイ」とのコラボ企画です。「日刊ゲンダイ」にも掲載されています。

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