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中外製薬の抗乳がん薬「ゼローダ」の臨床試験に、当の中外製薬からカネが出ていた。臨床試験の結果は、国際的医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に載った。ふつう、資金提供については論文に記載されていなければならない。にもかかわらず、論文にそのことは触れられていなかった。
なぜか?
論文責任者の京都大学医学部付属病院の乳腺外科長、戸井雅和に直接、取材した。しかし戸井は口を閉ざした。
京大病院長が「ワセクロ構成員」に「極めて遺憾」
私たちが戸井を取材してから4日後の2020年1月31日午後5時18分、京大病院総務課企画・広報掛から1通のメールが届いた。
タイトルは「貴法人の構成員を名乗る者による行為について」。
PDFファイルが添付されていた。開くと、ワセダクロニクルの取材に対する抗議だ。抗議している人物は京大病院長の宮本享だった。以下のような内容だった。
「2020年1月27日午後4時ごろ、貴法人(ワセクロ)の構成員を名乗る者2名が、京大病院の許可を得ずに院内で本院職員に対して取材を試みるという事案が発生した」
「何より患者さんに対して安全に落ち着いて療養できる環境を提供する観点から、病棟や待合、廊下等の公共スペースでの取材については、原則として許可していない。取材を希望される場合は、あらかじめ許可を得ていただくこととしている」
「今回の行為が貴法人の構成員によるものだとすれば、職員の業務を妨害するだけではなく、患者に迷惑をかける行為で極めて遺憾である」
「同様のことが再度あれば、院外退去を求めるか警察へ通報することもある」
京大病院は「警察」まで持ち出してワセクロに抗議してきた。
何度も取材を申し入れたのに
ワセクロは戸井に対して、何度も取材を申し入れている。
2019年11月には京大病院総務課企画・広報掛を通じて取材を申し込んだ。その際は「多忙」を理由に断られた。
年が明けて1月7日、戸井に再度メールで取材を申し込んだ。
そのとき、臨床試験に参加したがん研究会有明病院乳腺センター長の大野真司が「戸井医師にご確認を」といっていることも伝えた。
「日時、場所とも、そちらの都合にどのようにでも合わせる」「30分でもいい」とも書き添えた。
しかし戸井からは返事すらなかった。なので、私たちは戸井を京大病院に訪ねることになった。
今回の取材は戸井が診療を終えてから行い、患者だけではなく製薬会社員ら一般の来訪者もいる公共スペースで行った。患者に迷惑をかけるような大声を出したわけでもない。
なぜ、京大病院はここまで過敏に抗議してきたのだろう?
(敬称略)
=つづく
【関連データベース】
マネーデータベース「製薬会社と医師」
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