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中外製薬は、自社の抗がん剤「ゼローダ」の臨床試験に、NPO法人「先端医療研究支援機構(ACRO=アクロ)」を隠れみのにして多額の資金をつぎ込んでいた。「紐付き臨床試験」である。臨床試験を担当した医師はこのことを知っていたのだろうか。
ACROの関係者は、「当然知っている」と答えた。
医師たちは国際医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に「ゼローダを使えば乳がんの再発リスクが30%減る」という驚異的な論文を発表している。しかし同誌に、中外製薬の資金が入っていることを申告していない ──。
世界を驚かせた朗報の信頼性が、根本から崩れている。
「誹謗中傷」となじった大野医師は?
中外製薬のカネと臨床試験との不透明な関係を指摘したのは、乳腺外科医の尾崎章彦(34)だ。尾崎は2017年9月、学術誌「サイエンス・アンド・エンジニアリング・エシックス」にその事実を指摘する論文を書いた。
尾崎は当時、東京都江東区の公益財団法人がん研究会有明病院に勤務していた。論文が出た直後、上司の乳腺センター長、大野真司に呼び出された。大野はゼローダの臨床試験に参加した医師だった。
「君が学術誌に書いたことが事実でなかったら、それは誹謗中傷だよ」
「中外製薬のカネが紐付きだって、証拠があるの?」
この時点で尾崎は、中外製薬からACROに寄付金が入っている事実は把握していたが、そのカネが臨床試験に紐付いているとの証拠は得ていなかった。
大野から呼び出された後、尾崎はワセダクロニクルと協力して証拠集めを始めた。
ACROの銀行通帳のコピー、収支明細表、帳簿……。
これらの経理資料と関係者の証言が集まった。それらは中外製薬のカネが紐付きであることを裏付けていた。
私たちは2019年11月、大野に取材を申し込んだ。
がん研有明病院の広報課から返事があった。
「(大野によると)臨床試験の窓口は京都大学の戸井医師ということでした。申し訳ございませんが、この件につきましては戸井医師の方へご確認いただければと思います」
大野は逃げた。
「多忙」を理由に取材を拒否
大野がいう「戸井医師」とは、京都大学医学部付属病院乳腺外科長で教授の戸井雅和のことだ。中外製薬の抗がん剤ゼローダの臨床試験を実施した医師グループを束ねた。国際医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に掲載した論文の責任著者でもある。
尾崎も、戸井の名前は知っていた。「能力が高くて潔癖な先生」と思っていた。
2019年11月29日、私たちは戸井に「12月4日までに取材を受けてほしい」とメールで申し込んだ。場所は京都でもどこでも都合に合わせる、と伝えた。
その数日後の12月2日、京大病院の総務課企画・広報係からメールで返事がきた。
「(戸井は)多忙につき、取材等はお断りさせていただくとのことです」
確かに年末は忙しいのかもしれない。私たちもそう思った。なので、年が明けて2020年1月7日、再び戸井のメールアドレスに連絡を送った。
「年が明けました。昨年はお忙しいとのことでしたが、ご対応をお願いしたいと思います。大野真司先生からも『CREATE-X(臨床試験)の件は戸井先生に聞くように』と伝えられております」
3週間経った。返事がなかった。
私たちは戸井を訪ねてみることにした。
(敬称略)
=つづく
【関連データベース】
マネーデータベース「製薬会社と医師」
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